昨日は「こんにゃくの日」だったので、こんにゃくにちなんだ短編小説をご紹介しようと思っていましたが、結局寝落ちして書けませんでした(-_-;)

で、今日はその短編が入っている単行本をご紹介します。






「戦前の怪談」 田中貢太郎:著
(河出書房新社   2018年3月刊)




田中貢太郎(1880~1941)は戦前に活躍した怪談、奇譚の大家です。
本書は彼の作品の中から怪談を24話収録しています。
著者は「日本怪談実話」という本が有名なようですが、本書に収められた話が全て実話を元にしているのかはわかりません。
幽霊の出る話もありますが、多くの話は美人に化けた狐や、得体の知れないモノノケの話。
でも昨日ご紹介するつもりだった短編「女の怪異」は幽霊でも妖怪でもなく、悪い男に襲われそうになった女がコンニャクを使った機転で危機から逃れる話です。
恐ろしい目に合った男がその後も奇怪な幻覚を見てついに気が狂ってしまうのですが、元々の行いが悪いので同情できません…。

狐が人に化ける話は、最後に狐が退治されて終わるパターンが多いけれど、狐の化けた女と結婚した話「黒風」は、あのまま一緒に暮らしていても良かったんじゃないかと思わなくもないです。でも、以前に同じ狐に化かされて結婚した人が怒って追いかけてきたんだから、やっぱり何か下心があって人間に近付いたのかな。

主人公の青年が妖しい女性に誘われ館に閉じ込められる「蟇の血」は不気味さと不可解さが際立つ作品。青年をいたぶる女性たちの正体は何なのか、なぜ青年は死んだのか、そもそも恋人と付き合い始めた時に既に魔物の手に落ちていたのか。最後まで謎が残ります。


読んでいると、生い茂る雑草の草いきれ、古い木造家屋の湿気た建材のにおいが漂ってくるような気がします。梅雨の近いこの時期に読み返したせいもあるかもしれませんが。
そして、今の時代の怪談は幽霊譚が多いように思うけれど、そんなに遠い昔でもない戦前の怪談には、人を化かす狐や狸もまだまだ健在だったんだな、と思った怪談集でした。