4月8日は灌仏会(かんぶつえ)。

花祭りとも呼ばれる、お釈迦様が誕生したとされる日です。

というわけで今日は、仏教に関連した人魚のお話をご紹介します。

 

 

 

 

「人魚の唄」  前田芳雄:著  千地養巣:画

(興教書院  1932年5月刊)

 

 

 

 

主人公は、母親と二人で小さな島に暮らす少女。

白い椿が美しく咲く島ですが、なぜ自分が母と二人きりで

この島で暮らしているのかわかりません。

自分の生まれる以前の母の住んでいた国を見てみたいと思うものの、

そのことを言うと母親は悲しそうな顔をするのでした。

 

あるとき、遊び疲れて眠った少女は夢を見ました。

どことも知れない湖の底にある宮殿に、お姫様が暮らしています。

湖の上に浮かび出た姫は、そこで一羽の美しいコウノトリに出会いました。

コウノトリは自分の旅の話をしてくれましたが

しばらくすると、あなたとずっと前の世で逢ったような気がする、と姫に言います。

お思いだしになりませぬか、人魚の唄を、あの歌を。

そう言って水煙が立つほど激しく羽ばたいたコウノトリは

翼が折れて水に沈んでしまいました。

記憶をたどっていた姫は、人魚の唄を思い出した、と言葉を投げて

そのまま湖に飛び込みます。

そこで少女は目が覚めました。

母に夢に出てきた不思議なコウノトリのことを話すと、母親は涙を浮かべました。

 

夢を見てから七日後の夜、少女は夜になっても鳴きやまない小鳥の声に誘われ

海辺へと出てきました。

そこで月の光の中でひとり歌っている人魚に出会います。

去ろうとする人魚に少女はあわてて美しいコウノトリのことを聞きました。

一旦水に沈んだ人魚は再び浮かび上がり

少女とは前世からの因縁があるのだと告げます。

さらに前世は自分はコウノトリだったとも言い、

その頃の話を語り出します。

 

 

 

 

 

 

かつて多くの仲間と共に旅を続けていたコウノトリ。

特に長のコウノトリは金色でとりわけ美しく、

彼を捕えようとわざわざ湖を造った国もありました。

国王の思惑通り、羽を休めようと降り立った金色のコウノトリは罠にかかります。

ところが罠にかかっていない他のコウノトリも長をかばって飛び立たず

共にいるのを見て王は徳の高さに感じ入り、コウノトリを逃がしてやるのでした。

この国の隣国も、金のコウノトリを狙っていました。

そしてこの国王は大変短気で乱暴者でした。

やはり湖を造ってコウノトリたちを待ち受けます。

一度罠にかかったため、コウノトリたちは警戒して湖は飛び越していましたが、

ある日疲れ果てた一羽がうっかり湖に降りてしまいます。

やって来た番人は金のコウノトリでないと知ったものの、

それでも初猟だし、褒美がもらえるかもと国王に見せましたが

朕(わし)をたばかるつもりじゃな、これが金のコウノトリか。

と王は激怒、たちまち鞭の雨を降らせ、番人は血だらけになってしまいました。

そのとき、お妃が出てきて彼を許してやるよう王に願い出ました。

隣国の国王のふるまいも例に出して王を諫めますが王は耳を貸さず

反って怒りが増すばかり。

ついに身重の王妃にも追放を命じ、コウノトリの背に彼女をくくりつけ

塔から海に落としてしまいました。

 

コウノトリは気を失った王妃を背にのせたまま、

お城に咲く白椿から教えられた島を目指して飛び続けました。

やがて島にたどり着き、王妃は助かり女の子の赤ちゃんを産みました。

コウノトリは海に沈んでしまいますが、海の底で生まれ変わって人魚になりました。

その王妃は少女の母だったのです。

ひとしきり話した人魚は少女に、

あなたはお妃様にそっくりなお声とお顔ですと言い、去ろうとします。

少女は自分の見た夢のことを人魚に話し、これは後の世のことかと聞きましたが

人魚はそれはわからない、おわかりになるのは仏陀(みほとけ)様だけだと言います。

少女も、仏陀がこの世に出て教えを聞かせていただくときこそ

母も自分も本当に幸福になるのだとわかったのでした。

仏陀の御教えを聴きさえすれば国王の心も改まるはず、

そうしたら母様と国へ帰りなさい、それまでは仲良くこの島で遊びましょう、

と人魚は少女に言い、二人は固く手を握り、喜びに涙を溢れさせるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

というお話。

この作品は物語詩ということで全文、七五調の詩の形式で書かれています。

わかりやすく、読みやすいけれど

最後にいきなり主人公たちが仏の教えを口にし始めるのが

ちょっと唐突な気も・・・。

身重のお妃を突き落とすような乱暴な国王が

仏様の言葉がいかにありがたくても、すぐに改心するとも思えないのですが。

などと思ってしまう信心のない私・・・(-_-;)

 

 

 

著者の前田芳雄は詳しい経歴はわかりませんが

前書きなどを読むと仏教の日曜学校で教えていて、

キリスト教の童話が数多くあるのに対し仏教のそれがほとんどないため

自ら筆を執ったということのようです。

本書は6つの話が収められていて、「人魚の唄」を含む4編は

本生譚(インドに伝わる仏教説話集)の中の話をもとに書いたもので

他の2編は完全な創作とのこと。

 

挿絵を描いた千地養巣もどんな画家なのか不明ですが

大正~昭和初期によく見られる画風です。

箱入りのきれいな造本で、

当時どれくらい需要があったのかわかりませんが、

仏教の教えを伝える童話を作りたい、という作者の熱意が感じられる本です。

 

 

 

 

灌仏会にちなんで、などと書きつつも

また日を大幅にまたいでしまいました・・・(-"-)