艶書(付け文) | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

和也は帳場に座る智の横に

くっ付くように座り

袖をギュッと握り締める

中々、思うように仕事が出来ないのだが

そこは目の中に入れても痛くない弟

何も言わずに帳簿付けを続ける

 

「にいちゃん ・・・ もう、やつどき ・・・」

 

年端も行かない和也

兄に構ってもらおうと

何やかやと考え付く

 

「もうそんな時間か?

 なんぞ有ったかなぁ」

 

和也の頭を撫でて

ゆっくりと立ち上がる

すると和也も一緒に立ち上がった

 

店を継いで一年

親の代から居た奉公人は

頼りない主に見切りをつけて

殆ど辞めてしまった

残ったのは年季が残った

若い手代と

年老いた番頭だけ

見兼ねた上毛屋が

忙しい時だけ

手代を寄越してくれる

 

「番頭さん、少しお願いできますか?」

 

この店の中では自分が一番の下っ端

その想いで店に出る

 

「承知いたしました

 和坊、ゆっくり食べてきてくださいな」

 

「うん」

 

和也がにっこり笑う

 

「はい だろ」

 

智に言われて

ハッとした顔で言い直す

 

「はい」

 

「じゃあ、なんぞ買ってこようかねえ ・・・」

 

 

何も用意していなかった事に気が付いた智

和也の手を引いて店の外に向かう

 

「行ってらっしゃいませ」

 

番頭が威勢よく声を掛けると

手代が後に続いた

 

「団子か大福 ・・・ どっちかだな

 皆の分を買うから

 和也、荷物を持っておくれよ」

 

ほんの少しの人数分なのに

大袈裟に手伝いを頼む智

一緒に出掛けられるのだから

それくらいは朝飯前だと言う顔の和也が

笑顔で大きく頷いた

 

団子屋の前に人が並んでいるのを見て

此処にしようと決めた智

和也と手を繋ぎ順番を待つ

少しの間のうちに若い女性客が横に並んだ

 

これは ・・・ またか ・・・

そう心の中で呟いて溜息をつく

自分の番が来て団子を買って振り向くと

さっきの女性客は姿を消し

満面の笑みを浮かべた翔が立っていた

 

「どうしたんだい?」

 

「智が店の前を歩いて行くのが見えただろ

 急いで飛び出して来た」

 

最近、見習いとして店に出ている翔

これ以上ないほどの脂下がった顔をする

 

「勝手に出て来ていいのか?」

 

「良いんだよ、外に出ようと思ってた所だったからな」

 

幼馴染の翔は呉服問屋『上毛屋』の後継ぎ

若智屋と違って大店と呼んでもいいくらいの店だ

 

「旦那様に叱られるぞ」

 

「八刻は自由にしていいと

 おとっつあんから許可をもらってるからな」

 

嬉々として理由を述べる翔

呆れ顔の智がボソッと呟く

 

「はあ ・・・ お前さんは呑気で良いねえ ・・・」

 

いつもなら笑顔なのに ・・・

今日の智は思いのほか冷たい

怪訝な顔で智の顔を覗き込む

 

「やけに機嫌が悪いが何か有ったのか?」

 

「何にもねえよ ・・・

 和也、店に帰ろうな

 団子を持つのは ・・・」

 

「わたしです」

 

「よくできました」

 

手にした団子を和也に渡し

背中に手を添え歩き始める

 

「私がなんぞしたのか?」

 

心配になってきた翔が

泣きごとのように呟く

 

「してねえよ ・・・

 お前さんの分もあるから

 さっさと来な

 渡す物もあるから」

 

そう言われてホッとした翔

和也を挟んで並んで歩く

 

「和也は偉いねえ

 兄ちゃんの仕事が手伝えて」

 

「はい」

 

褒められると嬉しい

それが兄の仕事の邪魔をしていても(笑)

 

3人で裏木戸から店に戻り

智の部屋に上る

 

「翔、少しだけ和を見ててくれ

 番頭さんたちも一服してもらうから」

 

「ああ ・・・ 承知した

 茶でも淹れておくよ」

 

その言葉にすかさず異を唱える智

 

「いや、何もするな

 火傷されたら大変だからな」

 

不器用を絵に描いて歩いてるような翔

和の側で座っててくれたほうが安心

 

「和、翔の事を頼んだよ」

 

「はい」

 

「ひでぇ言われ様だな ・・・」

 

苦笑いを浮かべて頭を掻く

 

「良いんだよ、一応客なんだから」

 

この「一応」を言わないと

機嫌が悪くなるのを心得てる智

それだけ言って部屋を出て行く

 

 

さて ・・・ これをどうする

 

袂に入れられた付文

あて名は見るまでもない

翔宛の艶書

智が外に出ると

袂に入れられている

 

理由は明白だ

翔の袂に入れても

その場で破り捨てられるからだ

 

つまりは私の手から渡して欲しい

はっきり言って ・・・ 

迷惑この上ないが

破り捨てれる訳もなく 

そのまま渡して喧嘩になる

 

 

艶書ねえ ・・・

書いたらすっきりするのかねえ ・・・

 

 

 

通いの女子衆に団子を渡して

そのまま部屋に戻る

 

「にいちゃん、だんごたべてもいい?」

 

待ちきれなかったのか

顏を見るなり団子に手を伸ばした

 

「よく噛んでな

 今、茶を淹れてやるから」

 

「うん」

 

「翔も食べていいぞ」

 

「お前さんが座ってから食べるよ」

 

和がいる時に渡した方が

喧嘩にはならねえと考えた智

茶の用意をして翔の横に座る

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

団子に手を伸ばして口に運ぶ

 

「やっぱり、おやつは

 智と一緒に食べるのが

 一等おいしいな」

 

和也もその意見には賛成なのか

嬉しそうに頷く

 

「翔 ・・・ 預かりもの ・・・

 誰からかは知らねえ

 裏にでも書いてあるだろう」

 

袂から付文を出して

翔の横に置く

 

「どうしてお前が ・・・」

 

眉間に皺を寄せて

不満げな顔をする

 

「俺は受け取ってないからな

 団子を買うために並んでたら

 どこぞの誰ぞが忍ばせて行ったんだよ

 ったく、本人に入れろだよ ・・・」

 

文句が言いたいのはこっち

ムッとした顔をして団子を口に運んだ

 

翔は付文をチラッと見た後

それを火鉢の中に放り込む

 

「智、これからは私に見せずに

 火にくべてくれれば良いからな」

 

それが出来るのはお前だけなの

心の中で呟く

 

「はあ~ そんな訳には行かねえの ・・・

 もう、この話は終わりな ・・・」

 

これ以上の言い合いは御免と

和也に視線を移し

 

「和、美味いか?」

 

「おいしい」

 

「もう一本たべていいぞ」

 

「うん」

 

さっさと話題をすり替えた

 

 

男前番付に名が載ってから

翔の人気はうなぎ上り

懸想する娘が増えたのは知っていたが

その騒動が己に降りかかるとは ・・・

外に出る時は背中に紙でもつけて歩くか

そんなことを考え乍ら

茶を啜った

 

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>

 

お江戸の二人が若い頃のお話です

 

 

恋文企画ですが

どっちが恋文を書くでしょうか?

皆さんはどっちがいい?