(続)光が射す場所 99 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

翁の庵がある寺の境内は

腰が抜けるほどの広大な敷地の中にあった

よくよく考えると

ここは櫻井たちの江戸では有名な公園だ

その中の中心が東の比叡山と位置付けられた寺

伽藍は延暦寺の様式に準じて造営されている

にしても ・・・ 公園より広いような ・・・

翔旦那は本堂の方には行かず

鬱蒼とした樹々に囲まれた方に

向かって歩いて行った

 

そう言えば ・・・ 最盛期には

この境内に子院と呼ばれる院が

36もあったというのを思い出した

公園よりも広いはず

そう思いながら翔旦那の後をついて行くと

樹々の中に佇む庵が見えて来た

 

思っていたよりも大きい ・・・

(茶室がある院)

翔旦那は翁に挨拶をして

そのまま戻っていく

 

「千葉屋からここまで来るのは

 草臥れただろう?」

 

翁が笑みを浮かべて訊ねる

 

「余り歩く事がないので

 少々疲れておりますが

 こちらの境内に入って

 心が洗われたような気がします」

 

運動するのはジム

景色を見ながら歩くこともない

ルームランナーの上を

黙々と走るだけ

それでも体を鍛えてると満足してた

 

空を見上げ風を感じ

鳥の囀りや樹々のざわめきに耳を傾ける

そんな当たり前の生活を忘れてしまった

 

現代人の視野が狭いのは

そんな所から来ているのかもしれない

 

「そうとは見えぬが ・・・

 ふふ ・・・ そうじゃ

 茶を馳走する前に

 止観(坐禅)を組まぬか?」

 

「止観ですか?」

 

聞いた事のない言葉に戸惑いながら

翁に聞き返す

 

「坐禅の事じゃ ・・・

 この寺では止観と呼ぶ」

 

「坐禅ですか? ・・・」

 

宗派によって呼び方が違うのかと

納得したが

いきなりと言われるとは思わず

素っ頓狂な声をあげる

 

 

「ああ、まずは己を無にする

 そうするとな ・・・

 心の声が聴こえてくるんじゃ」

 

「心の声 ・・・」

 

「主が何に怯え

 何に迷うのか 

 心は正直じゃ

 ちゃんと教えてくれるぞ」

 

自分は強い人間だと

そう思い続けて来た

弱い部分に目を背けて

 

「翁 ・・・ 宜しくお願いします」

 

櫻井は真剣な眼差しを向けて

翁に一礼する

 

「そう怖がらずとも良い

 心の声が聴こえずとも

 まずは心を無にする

 そこから始めればよい」

 

翁はゆっくり立ち上がり

櫻井の方を向き

ついて来るようにと目配せをした

 

 

 

 

 

<続きます>