古今東西のさまざまな作品についてスピリチュアルな視点から語っていくコーナーです。

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ライド・オンの一場面で小津安二郎の名前が出てきました。あの空気感が恋しくなってこちらの作品を鑑賞しました。

 

1959年公開「お早よう」予告編

 

住宅街のお隣さん同士のやりとり、家族内のやりとり、それぞれが縦糸横糸のように組み合わさって一つの世界観が織りなされています。日本の住宅の柱を使った構図もあいまって、ドールハウスのお人形が生きて動いているみたいな可愛らしさがあります。

 

ここの所、アクション映画を観続けていたので穏やかさに拍子抜けしたよ昇天

 

でもね、平穏なだけじゃなくて、憶測からの噂話が飛び交ったりして時折人間関係に波風も立ちそうになるんです。

相手のことを思う気持ちやプライドが入り混じって言葉が上手く出ず、怒って見せたり意地を張って見せたりする。根っからの悪人はいないのにどうしても時々雲行きが怪しくなってしまう。

そんな中でも誠実に丁寧にコミュニケーションを取っていくことで信用が積み重なり信頼されていく。一方で人格者のようには振舞えない人にもその人なりの幸せがあって、チャキチャキと生きることを楽しんでいる。

 

案外、天国っていかにもキラキラフワフワした豪華なものじゃなく、こんな風に素朴な感じなんじゃないかな…なんて思えてくるから不思議です。

アクション映画の登場人物は身体能力が凄いけど、ヒューマンドラマの人々は心の筋肉がバッキバキグーキラキラ

 

 

ラストシーンの男女のやり取りがもどかしいですね。

「いい天気ですね。あの雲、何かに似ていますね」

「ええ、本当に…」

ふたりしてそんなことばかり言って、肝心な言葉が中々でない!

 

作中の林家の奥様の「うちの息子はお父さんによく似たのね、頑固で…」という語り口から察するに、このご夫婦も若い頃はシャイな恋愛をしていたのかなと想像してしまいます。

だけどあの英語で仕事してる男の人、なんだかんだでちゃんと決める所は決めそうな感じしますよね。若いお二人もいずれは林家のご夫婦みたいに成熟したパートナーシップへと成長していきそうな気配を感じさせます。

 

 

終盤でお父さんが「こら!」と怒鳴る場面が印象的でした。

廊下から子供部屋の兄弟の姿を映し、父親の顔は出さない。兄は背を向けて机で勉強をしています。

弟の勇ちゃんだけが父親の顔を見ていて「嘘だね!その顔、笑ってるもん」と言ってのける。

また父親の姿が画面に映ると足元にはテレビの箱が。父親は居間へ立ち去ります。もしかしてお父さんもテレビ欲しかったのかな?かわいいねニコニコ笑い

 


ちょっとした誤解ですぐトラブルが起きそうになるけど、登場人物が丁寧に自己表現と対話をすることで回避されていく様子は傍で見ていてホッとしました。大人同士の会話のシーンは間合いの計り方が絶妙です。喧嘩しない努力をお互いにしているから丸く収まっているんですね。年齢が若くなるほどコミュニケーションは直接的な傾向。

 

おはよう、こんにちは、いいてんきですね、そうですね…

どうでもいいような挨拶も楽しむ心の余裕を持てる事。素晴らしい贅沢なのだと思います。

それが恋の相手や仲の良い友人ならば、好きな人だからこそ何でもないやり取りも楽しいということもあるのでしょう。

 

幼児・子供から若い恋人たちへ成長し、そして夫婦から家族へ、やがては地域社会へと広がっていく、人間の営みが凝縮されたお話でした。

 

平凡な暮らしって尊いんだなぁ。

 

yucca.