38 少女の悲しみと少年たちの想い | きまぐれデイズ

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夜更けの17号室―――セルジュ、イレーネ、ジルベールが川の字で寝ている



イレーネの夢の中


イレーネ「ここは……どこ?」


だんだんと見えてくる人影……それはコクトー家にいた時に唯一自分に味方してくれた斜視の執事だった


イレーネ「ローレル?ローレル、あたしよ!わかる!?」

呼び止めようとして手を伸ばすがローレルはイレーネの手をすり抜けて行ってしまう


次に白髪気味のロマンスグレー的な養父、アンドリューとお嬢様出身らしい佇まいの養母、スザンヌが現れる……しかし2人もイレーネを無視していってしまう


イレーネ「……パパ!…ママン!……待って……行かないで!!」


イレーネ(お願い……もう誰も………誰も!!)


17号室

夢うつつに泣いているイレーネの泣き声で目を覚ますジルベール


ジルベール「……イレーネ?何泣いて……」


イレーネ「……マ……ママ」

ジルベール「……え?」


するとイレーネが突然ジルベールに抱きついてきた


イレーネ「ママン……!!」


ジルベール「ちょっと…おま…何間違えてんだよ!?……離せって……」

セルジュ「(イレーネの泣き声で目を覚ます)どうしたの?イレーネ起き……」

イレーネ「パ……パパ……」

セルジュ「え……?」


イレーネ「パパ……!!」

言うなりジルベールからセルジュに抱きつく

セルジュ、赤ん坊をあやすようにイレーネを宥める


セルジュ「大丈夫…どこにも行かない…僕たちはここにいるから……」


言いながらイレーネを寝かしつけるセルジュ、ジルベールも戸惑いつつイレーネの胸のあたりをトントンと叩いてやる


イレーネ、徐々に落ち着いて眠りに落ちていく


セルジュとジルベール、イレーネを寝かせた後、ベッドから出て互いの椅子に座る


ジルベール「……寝た?」

セルジュ「うん」


ジルベール「……ったく何が悲しくてママンなんて呼ばれなきゃいけないんだ…?」

セルジュ「仕方ないさ……いきなり父さんと母さんを一度に失ったんだもの……これじゃ当分1人で寝かせるのは難しいかもしれないね」


ジルベール「1日だけって……僕は言った筈だけど?」


セルジュ「(首をふって)Non,今のこの子には肉親として僕たちが側についててやらなきゃダメだ……僕が父さんの死から立ち直れたのは、パリに行くまで母さんがいつも側にいてくれたからなんだ………」


ジルベール「…そんなに優しかったんだ……君の母さん」


セルジュ「ああ……」


ジルベール「(フッと寂しく笑い)こっちと逆だね、僕は母親に会うなり、張り倒されて産むつもりなんかなかったって言われたし、イレーネはイレーネで東南アジアにいた時は使用人として働かされた上に母親にしょっちゅう折檻されたって言ってたよ……」


セルジュ「……え?どうして!?」


ジルベール「知らないよ……逆にこっちが聞きたいね!」


セルジュ(そんな……あの笑顔の裏に……こんなひどい過去があったなんて………!)


回想シーン

イレーネ「寂しさはお土産なのね……あたしが生まれる時に持ってきた……」


回想終了


イレーネが見せる雪割草(エーデルワイス)を思わせる笑顔の裏に感じていた寂しさと孤独の正体を知り、愕然とするセルジュ


ジルベール「あいつから聞いてなかったんだ?」


セルジュ「……うん……」

ジルベール「なんか…今の聞いてホッとした……」


セルジュ「…なんで…?」

ジルベール「さあね……それくらい自分の頭で考えなよ、優等生」


セルジュ「意地悪……いつもそうだけどたまには教えてくれたってバチは当たらな……」


ジルベール、言いかけてるセルジュに口づけ、セルジュもまたジルベールに口づけ返してしばし抱き合う


イレーネ「…ん……(寝返りをうつ)」


セルジュ「イレーネが起きちゃうな……そろそろ戻ろう」

ジルベール、名残惜しそうにセルジュの袖を引っ張る

セルジュ、苦笑しつつジルベールに口づけ、ジルベールと手を繋ぎながらベッドに戻り、イレーネを間にはさみながらジルベールと眠る


翌朝――

目覚ましより早く目を覚ましたイレーネ、2人が寝ているうちに歯を磨いて着替える


着替え終わったイレーネ、2人が寝ているのを見つめ、夢うつつにみた光景を思い出す


回想シーン

セルジュ「大丈夫…どこにも行かない…僕たちはここにいるから……」


夢うつつのイレーネに寄り添うセルジュとジルベール
回想終了


イレーネ、思わず涙を流す……が涙を見られまいと2人から背を向ける


すると不意に頭をくしゃっとなでられる……撫でたのはセルジュ


セルジュ「……おはよう、昨日は眠れたかい?」


イレーネ「う……うん、ありがとう……(泣きながら無理して笑おうとする)」


起きたジルベール、その様子に咳払いをして


ジルベール「……とりあえず僕たち着替えるからおまえ、先に外出てろ」


イレーネ「はーい」


イレーネ、廊下に出る


17号室、着替えつつ会話する2人

セルジュ「今日……どうする?あの子……流石に学校行くのは無理だと思うし」

ジルベール「どうせなら僕たちもエスケープして3人でどっかいこうよ!部屋に引きこもってても暗くなるだけだし……泣いても暗くなっても、死んだ人は帰ってこないだろ?」


セルジュ「あのね…今、仮にも喪中の時に不味すぎるよ……しかもそれ、君が授業をサボりたいからじゃないのか?」


ジルベール「ちっ……じゃあ気が済むまで部屋に引きこもって暗くなってろっていうのかよ?!」


セルジュ「そんなこと言ってないだろ!」


すると外からコンコンとドアを叩く音が


イレーネ「支度できたー?」

セルジュ「あ……うん、今開けるよ」


廊下に出てくる2人


セルジュ「お待たせ」


イレーネ「あの……あたし、学校行ける時までお兄ちゃんたちの授業、見学させてもらってもいい?」


セルジュ「え……?」


イレーネ「やっぱり…お部屋で大人しくしてなきゃダメよね……でもどんなに泣いてもパパたちは帰ってこないから……」


ジルベール「授業?あんなくそ面白くもないもん見たってしょうがないだろ?!」


セルジュ「とりあえず、ワッツ先生にきいて許可取ってこよう……それがダメならここで本でも読んでて」

イレーネ「……わかったわ」


セルジュ「(M)ワッツ先生から許可を取ることでイレーネは授業見学を許可され、僕たちは彼女が学校に行けるようになるまでの1週間、肉親として付き添った……僕たちに『死刑』を宣告する手紙がそれぞれ届いたのは皮肉にもイレーネが再び学校にいきはじめた日だった」