週末、久留米市美術館で開催中の吉田博展へ。

image
吉田博は、

明治~昭和にかけて活躍した久留米出身の画家。


水彩、油彩、木版画と表現方法を変えながら

一生を通して、自然を描き続け「絵の鬼」と呼ばれた男。


TVで初めて見たとき

作品の美しさはもとより、その生き様に強烈に惹かれた。


『石に齧りついてでも、ガラス拭きをやってでも

兎に角自分の體を日本の外に出してしまへ』


そんな強い想いでのアメリカ行きと

そこで掴んだ成功。


当時の日本画壇を占めていた勢力に対する反骨精神。


『描きたい』

ただそれだけで、ヒマラヤに登る情熱と行動力。


自分の表現を追求するために妥協しない姿勢。

 

彼の命の灯火そのものである作品に、圧倒される。


***


『帆船 朝』

image

同じ版木で色を変えた6連作のひとつ。

微妙なグラデ―ションで表現される時間の流れにため息。

ほぼ同じ構図の渡邊版との違いも興味深い。


『フワテプールシクリ』

image

細かい模様から透ける光の美しさ!

黒光りする床の質感もたまらない。


『雲海 鳳凰山』

image

隣の作品(渓流)との対比で際立つ静寂。

その神々しい美しさに、涙する。


***


木版画とは思えぬ色彩の美しさ。

その裏にある途方もない積み重ね。

 

画面を通しても伝わってきた

絵に込められた熱量のようなものが

作品からカタマリになって迫ってくる。


ひとつひとつが

生命力に満ちているのだ。


細部までこだわり、美しさを追求する姿勢。

天才的なデッサン力に裏打ちされた、細やかな描写。

陰影が生み出す柔らかな光。


温度や湿度はもちろん、

匂いや手触りまで、

はっきりと思い浮かべることができる。


どの作品も、

どこか「懐かしい」想いに包まれるせいで

そこに自分がいたかのような錯覚にとらわれる。


下絵を描く、版を彫る、色を刷り重ねる。

(作品によっては、100回近く刷り重ねたものも!)

気の遠くなるような工程を経て、生み出される美。


それはどこか、宗教画や宗教建築にしばしば感じる

ある種の狂気(その対象へのまっすぐな愛)と同じ匂いがする。


そしてわたしは、

その静寂の中にある狂気に惹かれるのだ。


自然の美しさを讃え

自らの持てる力を注ぎ込み

生み出された 愛ノ結晶(クリスタル)。


純粋な想いが形になったものは、

ただそこに在るだけで、胸を打つ。


***


終盤の従軍画家としての作品。

躍動感はあるものの、

時代背景を思うとやはり胸が痛んだ。


だからこそ、最後の作品が、

彼が愛した「高みから臨む自然」であることに

どこかほっとしたのだった。


出身地・久留米での初の里帰り展は

久留米市美術館にて3月20日まで開催中です。


素晴らしい作品の数々。

間近でゆっくり見られて幸せでした。


*ご覧頂きありがとうございます*