デイヴィッドが高いヴァイオリンを壊したって話は有名だけど

このチャプターはその話。

 

 

デイヴィッドは、ドイツで神童と言われた時代に

ストラディヴァリウスを貸し出してもらっていたんだけれど、

ロンドンの王立音楽大学に行く前には、持ち主である

タルボット家に返却されていた。

 

「ニューヨークのジュリアード時代は、安いヴァイオリンを

使っていてコンサートの前だけいいヴァイオリンを貸してくれる

ディーラーを探し回っていた。2006年までは。

2006年には、ジョヴァンニ・バティスタ・グァダニー二

によって作られたグァダニー二(1772年)を持つぐらいの

余裕ができて、父親のオークションで買った。

20万ユーロ(3000万ぐらい)だったが、実は掘り出し物だった。

というのは、その2倍でもそのヴァイオリンにとっては高いとは

思えなかったからだ。

と言っても、自分には大金だったけれど。」

と、デイヴィッドは書いている。

 

2009年の12月、ついになんとかグァダニー二のローンを

払い終えて、デイヴィッドは肩の荷が降りた気がした。

そのほぼ2週間後はクリスマスイブだった。

ロンドンのバービカン・ホールでメンデルスゾーンの

ヴァイオリンコンチェルト in D minor(よく知られている

ヴァイオリンコンチェルトではないよん。ヴァイオリンと

弦楽のためのコンチェルト)を弾いた。

その雰囲気は比べるものがないほど素晴らしかった。

バービカンセンターは素晴らしいコンサートホールを

併設している現代アートセンターだった。

両親もアーヘンからそのホールに来ていた。

 

コンサートが終わって、デイヴィッドはヴァイオリンを

肩にかけた。このヴァイオリンを誇りに思っていたので

毛皮職人にケースにグリーンの皮を張ってもらった。

そしてヴァイオリンをバックパックのように、

快適に持ち運べるように2本の紐をつけたのだった。

いい気分で、両親が車を止めている地下の駐車場に

歩いて行った。

 

雨が降っていた。

もちろん、ここはロンドンだ。

 

そして、デイヴィッドは駐車場に続くコンクリートの

階段の一番上で滑って転んで、

雨に濡れた階段をそのまま滑り降りてしまった。
一番下で仰向けになるまで止まることができなかった。
 
「別な言い方をすれば、
 僕は自分のグァダニーニの上に着地してしまったのだ。」
とデイヴィッドは書いている。
(↑あっちゃ〜やっちまったなー)
 
「自分自身のことを一瞬たりとも心配することなく、
体を起こし、ケースを自分から引き剥がした。
恐れたような、ヴァイオリンが粉々になるようなことは
なかったが、上部は正面から背面まで1箇所以上に
ヒビが入っていた。」
 
つまり、デイヴィッドは購入価格の三分の一を
破壊してしまったことになる。
ヴァイオリンはそんなだったが、デイヴィッド自身は
どこも怪我していなかった。
アザすらなかった。
ヴァイオリンケースが素晴らしくて、転倒の衝撃を吸収
してくれた。
だけど、ヴァイオリンの破片が飛び散った光景は衝撃的で
ひび割れたヴァイオリンのトップは、デイヴィッドの脳裏に
しっかりと焼きついてその様を見るのを止められなかった。
 
コンサートの成功でいい気分になっていたクリスマスイブに
天国から地獄に突き落とされたデイヴィッド。
幸運にも保険に入っていたのでそれで修復できた。
修復された後もデイヴィッドの手元に残していたのだけれど
もはや自分のヴァイオリンと思えず、ヴァイオリンへの
愛情がなくなっていった。
(↑うーむ、グァダニーニ、なんか気の毒だな。
 ある意味主人の体を守ったのに。
 もう愛されてないなんて。)
 
ここで、デイヴィッド、弓のことも語っている。
弓を2回壊したことがあるんだけど、弓には保険かけてなくて
大変だったらしい。2回ともステージ上でのこと。
神童時代に買った、有名なフランスの弓メーカー
Nicolas Malineのものだけれど、4万ユーロの価値(650万ぐらい!)
のあるものだったらしい。
 
ロンドンでヴァイオリンを壊してしまった3年後、パパが
電話をかけてきて、ストラディヴァリウスのことを言ってきた。
”このヴァイオリンには何年も前から注目していた。
今なら買える可能性があるそうだ。見たいかい?”
 
グァダニーニの代わりを探していたから、
デイヴィッドはすぐに”もちろん”と答えた。
ストラディヴァリウスだからといって必ずしも音が素晴らしいとは
限らないので弾いてみたいと思っていた。
でも、このストラディヴァリウスは1716年で、
ストラディヴァリウスの最高傑作と言われている”メシア”と
同じ年に製作されたものだった。
 
ストラディヴァリウスのオーナーはデイヴィッドが滞在している
ホテルまでそのヴァイオリンを持ってきてくれた。
デイヴィッドは、本当は挨拶もそこそこにそのヴァイオリンケース
を奪ってでも開けて弾いてみたいとうずうずしていたが、
そこはグッと抑えて礼儀正しく大人の挨拶を交わし、
ストラディヴァリウスを見せてもらった。
 
それは気絶するほど素晴らしかった。
美しく保存されていた。
そして少し弾いてみてわかった、自分はラッキーだと。
まだ買えるのかどうかわからなかったので、
この素晴らしい楽器を返さなければならないのかと
悩ましい気持ちになったのだが、
パパが頑張ってくれて、思ったよりもリーズナブルな
価格で買うことができた。
 
デイヴィッドはクロスオーヴァーでストラディヴァリウスを
使うことはない。
コンサートでは屋外もあるし雨もあるし、ヴァイオリンにとって
いい環境ではないことと、
笑っちゃったのがこの理由↓
「メキシコの熱狂的な人混みに捕まったらやばいから」
🤣🤣🤣
 

↓これが、そのメンデルスゾーンヴァイオリンコンチェルト

in D minorなんだけど、全部は入ってなくて編集されてる。

日付を見るとこの後に転んだわけではない。

(念の為)

 

アンコールでdance of the goblins(精霊の踊り)と

ロマンザ・アンダルーザ(アンダルシアの恋)を弾いてるけど、

このロマンザ・アンダルーザがめっちゃいいんですよ。

9:40ぐらいから。聴いてみてね。

 

↓あと、これね。

スイスのインターラーケンで、オリジナルのピアノコンチェルト

を自分でコンダクトしているの図。

ジョン・ヘイウッドと一緒に作ったみたいだけど、

なるほど、デイヴィッドの未来はこうかもしれないと思ったな。

 

自分で作曲した曲を指揮するってありだわね。

先生ではないような気がする。

たまには公開講座なんてやることはあるかもだけど。