デイヴィッドのバンドに新たなドラマー、Jeff Lipsteinが加わっての

3回目か4回目のツアーの時、コンサート中に全てのアンプが壊れて

しまった。突然、音が落ちた。

それで、どうしたか?

”テクニカルなトラブルなんだよーーー”と大声で叫ぶ?

NO.

デイヴィッドは、ショーのエモーショナルな途切れを与えたくなかった。

ので、バンドにステージから下がってもらって、

デイヴィッドだけにスポットライトを当たるようにして、

10分ぐらい、バッハのソロをいくつか弾いた。

 

↑えええええ、かえってラッキーじゃん。

 

こうして、クロスオーヴァーのツアーを続けていたけれど、
Facebookなどに”クラシックに戻ってきて”というコメントが
コンスタントに書き込まれることがあった。
デイヴィッドとしては、クラシック音楽に不誠実であったことなど
一度もないと思ってた。
その証拠に、3枚目のアルバムはクラシックだった。
2008年の「Classic Romance」。
Andrew Littonの指揮によるメンデルスゾーンやドボルザークなどの
ロマンチックな曲たちだった。
Littonは昔のデイヴィッドから知っていたが、デイヴィッドが
本当にまだクラシックヴァイオリニストとして真剣なのかどうかを
ちょっと疑っていた。
だから、デイヴィッドはあなたのために弾きますよと提案した。
1ページ目を弾かないうちに、彼は手を振って短く言った。
「楽しみにしているよ」
そして、「Classic Romance」は20万枚のヒットとなった。
デイヴィッドは、2000枚売れれば及第点だなと思ってた。
5000枚ならシャンパンを開けよう。
だけど、20万枚?それは前代未聞の成功だった。
 
しかしその1年後の2010年にリリースした「Rock Symphonies」
はあっさりとその記録を抜いて、60万枚売れた。
オフィシャルチャートでは1位を獲った。
誰も、こんな数字を夢見てはいなかっただろう。
ヴァイオリニストが1位になるなんて思わなかった。
 
それからデイヴィッドのコンサート会場はどんどん大きく
なっていった。
3000人収容ではもはや十分ではなく、5000、10000人の
会場になった。
2012年にはヨナス・カウフマンとサッカーの
ヨーロッパチャンピオンズリーグのセレモニーで、8万人収容の
ミュンヘンのアリーナでパフォーマンスをした。
 
2013年、アメリカ大統領のオバマがベルリンに来る予定
なので、首相官邸はこの国賓訪問のための音楽をデイヴィッドに
依頼した。もちろん、誰でもこの依頼を喜んで受けるだろう。
だけど、アメリカ大統領のために何を弾いたらいい?
そこでオバマ大統領が好きだという、
ブルース・スプリングスティーンの「Born in the USA」と
「Streets of Philadelphia」を選んだ。
 
そしてオバマ大統領がやってきて、アンゲラ・メルケルの隣に
座った彼をブランデンブルク門の正面に設営されたステージ
から見ることができた。
オバマ大統領は演奏を楽しんでくれたのだが、演奏後に
彼のSPがデイヴィッドの肩をたたき、オバマ大統領が挨拶
したいと言っていると言われた。
彼らの後に従って、アメリカ大使館に入った。
(↑ブランデンブルク門のすぐ横にある)
 
この前の年、2012にはデイヴィッドは
エリザベス女王にも拝謁していた。
そう、戴冠60周年を祝うDiamond Jubileeに、ウインザー城で
演奏する者として名を連ねたのであった。
 
ウインザー城に向かう途中、ちょっとナーバスになってきた。
そこで何が起こったのかを3つの行動で言い表そう。
 
Act1:その日演奏する全てのアーティストは(男性は
  ディナージャケットを着るように要求された)
  お城のホールの一つに案内され指示されるままに長い列に並んだ。
  デイヴィッドたちは、そこでおしゃべりしながら待っていたが
  それからドアが開いて、エリザベス女王が部屋に入ってきた。
  そして並んでいるアーティストたちを調べ始めた。
  握っている手をそれぞれ開かせられた。
  フィリップ殿下が女王の後ろに続き微笑んでいた。
  デイヴィッドは最後の方の一人だったから、他の人たちを
  観察する時間があったが、40人と握手するまで
  何年もかかったかのようだった。
  他の人はどうやってるの?
  男性はお辞儀をして、女性はカーティシー(膝を曲げて
  お辞儀するみたいな。ダイアナ妃が来日した時も
  天皇陛下に優雅にカーティシーしておられた。)をしていた。
  他の人は恭しく、何か相応しい流麗なフレーズを呟いたの
  だろうか。それとも黙って目を伏せたのだろうか?
  デイヴィッドは、入り口を注視し、そして女王が1歩1歩
  近づいてくる。
  
  「ますます心配になって、僕の手のひらは汗をかいてきた。
   少し震え始め、自分が自分の体から離れ、その一部始終を
   上から見ていることを想像した。
   女王のことはテレビで見て知っている。
   しかし、個人的にお目にかかる経験など、言葉にするのは
   難しい。
   グレートブリテンの輝かしい歴史が詰まっているのが  
   この女王なのだ。」
 
   ↑デイヴィッドのナーバスな気持ちが伝わってくる。
   緊張するだろうねえ。
   でもさ、エリザベス女王は元々はドイツ系だからね。
 
   「遂に、彼女が僕の正面に立った。
    僕は何を言ったらいいのかわからなかった。
    願わくば、愚かに見えないことを祈った。
    だけど、フィリップ殿下と交わした言葉は覚えている。
    ”あなたはドイツ出身ですか?”と彼は尋ねた。
    ”そうです。アーヘンで育ちました。”
    これについて王子はすぐに返した。
    ”アーヘン?そこは障害飛越競技で有名ですよね”」
   
   ↑えっ?アーヘンてそうなんだ。
   馬好きのわたしとしては魅力的な情報。
 
Act2:そこでは部屋の中央にマフィンやサンドウィッチが並んでた。
   だけど誰も手をつけなかった。
   ここでそれを食べるのは相応しい行為なのか?
   悩んだけれど、デイヴィッドの胃は緊張で締め付けられる
   ようだった。一口も食べられそうになかった。
   みんな同じだったようで誰も食べ物に手をつけなかった。
 
Act3:午後遅くなってコンサートが始まった。
   ウインザー城の広大な馬場にステージが設られ、
   オーケストラやバンドが交代で演奏していた。
   ロイヤルファミリーは反対側のロイヤルボックスにいた。
   天気も素晴らしかった。
   遂にデイヴィッドの番になり、Duelling Banjosの
   5分間のロングバージョンを演奏した。
   音楽に合わせて馬がステップを踏みながら動いていた。
  
デイヴィッドはそこに立って思った。
「四年前はアパートの賃貸料を払うためにお金をかき集めて
 たのに、今は英国女王の馬がお前のヴァイオリンで踊って
 いるんだぞ。」
 
↑そうだよねえ。
これを訳している間、わたしも女王が近づいてくる緊張
を体験してしまったわ。
 
↓デイヴィッドのFacebookに昔載ってた写真。
これ読んだ後だと、デイヴィッドの緊張が伝わるわねええ。
   
以前はデイヴィッドのパフォーマンスも動画にあったんだけど、
今は見れなくなってる。
 
これ読んで、久しぶりにRock Symphoniesを聴いたんだけど、
(最近はICONICばっかだった)やっぱりワクワクするよねえ。
わたしがデイヴィッドを発見したのはまさにこの頃だった。
日本では全く知られてなかったんだけど、ケーブルテレビでFox TV
見てたら、さきどりアーティストっていう5分程度の番組があって、
そこでデイヴィッドのことを紹介してた。
 
マイケル・ジャクソンのバックバンドをやってたオリアンティ
と一緒にSmooth Criminalを弾いてて、
「え?ヴァイオリンってこんなにかっこよく弾けるもんなの?」
ってめっちゃ印象に残ったんだよね。
いつもはそういうの見てもアーティストの名前は忘れちゃうんだけど
この場合は名前をメモした。