お金も食料も底をついたデイヴィッド、

雪でゲストが来ず、何も得られないまま

コンサートはお開きになった。

 

デイヴィッドの目に落胆を見たピアニストDanielは

一緒にデイヴィッドの家まで行くことを提案した。

「こんな状況で、君を一人で帰らせられないよ。

 一緒に帰ろう。君はヘルズ・キッチンに住んで

 いるんだろう?ここから25ブロック先だよ。

 なんとか歩けるよ」

 とピアニストDanielは言った。

(↑ダニエル優しい。25ブロック先は遠そう)

 

二人は歩き出した。

自暴自棄になっていたデイヴィッドはおしゃべりに

なってた。

ピアニストDanielを信用したデイヴィッドは、

雪のニューヨークを歩きながら自分の口座には

12ドルしかないことを打ち明けた。

(1584円!うーんそれはキビシイ)

「もしかしたら10ドルかも」

「あり得ない。信じないよ」

彼は、デイヴィッドの早い成功と今の苦境を
一致できないでいた。
 
「待って、銀行がある。
 それを証明するために、残金をプリントアウト
 して見せるよ」
とデイヴィッドは、銀行に入ってATMに行き
クレジットカードを入れて残高を印刷した。
そうしたら心配してたより悪くなってた。
使える残高は7.95ドル(1049円!!!)
もし明日買い物でもしたらすぐに口座凍結
されるだろう。
そのプリントを持って外に出ようとしたら
ブーッブーッと注意を促す音が聞こえた。
振り返ってみたら、別のATMに
アメリカンエクスプレスのブラックカードが
突き出されたままになっていた。
誰かが、うっかり置いていってしまったんだろう。
デイヴィッドは、それを抜き取り外にいる
ピアニストDanielに見せた。
彼に自分のアカウントの残高も見せたので
デイヴィッドが大袈裟でもなんでもなく
苦境にあることがわかった。
 
「このアメックスが隣のATMに差しっぱなし
だったんだ。どうすればいいかな」
 
ピアニストDanielはそのカードを通りのライトに
かざし「聞いて」と言った。
「これは君がやるべきことだ。
 自分が食べるものを買って、1ヶ月分の
 地下鉄のチケットを得るんだ。
 それから、このカードを郵便ポストに入れて。
 カードの保有者は彼の保険の会社から
 お金が戻る」
 
これはデイヴィッドを助けてくれるものだ。
だけど、自分の人生の中で何かを盗んだことはない。
また、すぐに返すことなく誰かにお金を借りたことも
ない。
6歳の時、スイスの男子修道院の慈善箱からコインを
取ったことがあった。
そうしたら父から平手打ちをくらった。
その経験を忘れることはなかった。
デイヴィッドは、その時コインコレクターだったので
珍しいコインに興味があっただけだったんだけど。
 
だから、見知らぬ人のクレジットカードを遣うべきでは
ない。
しかし、困窮している今、贈り物にケチをつけている
場合ではない。
次の日デイヴィッドは、そのカードを郵便ポストに
入れる前にそのカードで250ドル分の食料を買い、
150ドルで1ヶ月分の地下鉄の定期を買った。
ニューヨークでは、落とし物を郵便ポストに
入れるのは通常のことで、
ポストマンはこれらを丁寧に扱ってくれる。
そしてなんとか次の4週間、節約して暮らすことが
できた。あんまり気分のいいものではなかったけれど。
 
また次の月曜日がやってきた。
金曜日に延期となったコンサートの日だ。
天候は落ち着き安全に歩くことができた。
摩天楼Danielのところには、
ある尊敬すべきオーディエンスが集っていた。
Gil Shohat(イスラエルのクラシック音楽家)がいて
お互い聞いたことはなかったが、デイヴィッドの演奏を
聴いて、少し彼はデイヴィッドのことを知った。
そしてコンサートの後、デイヴィッドのところにやってきて
イスラエル・チェンバー・オーケストラの指揮者だと
自己紹介した。
彼はデイヴィッドの演奏を気に入ってくれて
賞賛が止まらなかった。
そして彼はデイヴィッドをイスラエルに招待してくれた。
「夏に、君と僕たちで5つのコンサートをやりたいんだ。
 我々は君のために前金を払う用意があるよ。」
デイヴィッドは、ひょっとしたらレコード契約も
エージェントもなしのままになるかもしれない、
しかし自分の未来が見えてきた。
こうしてデイヴィッドの貧乏な日々は終わりを告げた。
Gil Shohatに感謝する。Daniel Kuhnに感謝する。
そして大事なことを言い忘れていたが、銀行でのあの
ブーブー音にも感謝。
 
デイヴィッドは
「あのブラックカードがなければこの自叙伝を出すことは
 なかっただろう」と書いている。
 
まあ、確かに人様のカードを使ったわけだから
ギルティを感じるとは思うけれど、アメリカではリッチな人が
困っている人に何かを買い与えるっていう行動は普通だから、
このブラックカードは神様からの助けだったと思っていいと
思うわ。
そもそもブラックカードを持っているリッチな人は
400ドルぐらい使われてたって気がつかないわよ。
(わたしはいつの間にかアメリカで限度いっぱい
クレジットカードが使われててカード会社から電話があって
発覚して、ことなきを得たことってことがあった。
わたしみたいなしょぼい年収の人間は400ドル使われたら
大ごとだけどさ。ブラックカードの人はへっちゃら)
 
毎日をイライラして過ごしていると気づかないんだけれど、
自分の悩んでいることの解決法が思わぬことで発見することが
間々ある。
一度、あることでどうしたもんかと悩んでいることがあった。
2、3年同じことで悩んでた。
二つの方向があって、自分はA方向と心では決めていたんだ
けれど、A方向にするには過去のいろんなしがらみが邪魔をして
決めきれなかった。
そんな時、新宿の紀伊国屋書店で何気なく開いた本に
「古いしがらみは捨てていい」っていきなり書いてあったの。
それをみた時
「そうか〜わかったぁあああ!神様ありがとう」って
ひとりごち、A方向に迷いなく進んだってことがあった。
 
明るく、人を恨まず、自分のやるべきことに努力し、
自分で考える人生を送っていれば
何かを成し遂げるための困難は必ずヘルプが出てくると
信じてる。
 
デイヴィッドは付き合った女に、こっそり自分のクレジット
カードで買い物されてたり、勉強用に渡していたお金を
全部パーティに散財されてたりするので、今、相殺したかもね。
🤣🤣🤣
 
デイヴィッド、ようやくブレイクスルーに向かう。
 
ところでさ、これを読み始めた頃は金色の文字は
↓こんなに綺麗だったのに、
 
今、↓こんなにハゲた。日本製だったらこうはならないと思う。
読み終わった時にはほぼハゲてそう。