致死率が非常に高く、猫ちゃんにとって最も怖い病気であるFIP(猫伝染性腹膜炎)。

この病気では、お薬を使った治療がメインです。

ここではどのようなお薬を使い、具体的にはどのような治療を実施していくのかご紹介します。

 

これまでは病気の進行を遅らせる「対処療法」が中心でしたが、近年では「克服する」方向での治療も出てきています。

 

▶FIPの治療方針

FIPの治療方法はいくつかあります。

まず従来から実施されているのが、お薬による治療で、おもに次のようなものがあります。

 

・抗ウイルス効果が期待されるお薬による治療

・抗炎症薬(ステロイド系など)による治療

・Xraphconn(MUTIAN)による治療

・モルヌピラビルによる治療

 

 

ひとつずつご紹介していきます。

 

 

◆抗ウイルス効果が期待されるお薬による治療

抗ウイルス効果が期待されるお薬は、FIPの原因であるFIPウイルスの増殖を抑えたり、ウイルスに打ち勝つ免疫力をあげる働きがあります。

 

まずは「ネコインターフェロン」という種類のお薬で、1~2日に1回、皮下注射の形で投与します。こちらは免疫力を上げることでウイルスに打ち勝つということを目的にしています。

他にはヒドロキシクロロキンという種類の飲み薬があり、こちらは3日に1回が基本です。

もうひとつ、イトラコナゾールというお薬です。1日1回の飲み薬です。

 

また「GS-441524」と呼ばれる種類の抗ウイルス薬があります。人のコロナウイルスでも承認されているお薬です。おもに皮下注射の形で、1日1回、少なくとも12週間以上続ける必要があります。飲み薬も開発されています。

 

他には「GC376」という種類の抗ウイルス剤があります。こちらも皮下注射の形で1日2回、12週間続けますが、ドライタイプの猫ちゃんには効きにくいという報告もあります。

 

「GS-441524」と「GC376」については、法的に正式なものは、国内ではまだ入手が難しいのが現状です。

コピー商品やヨーロッパ方面でその国独自の取り決めで承認されているものは比較的手に入れやすい状況ですが、同じ効果が得られるかどうかという課題が残っています。

また、いずれのお薬も副作用がないかどうかを確認するために定期的な診察と血液検査などが必要です。

 

 

◆抗炎症剤による治療

FIPはウイルス感染症であると同時に強い炎症性の病気でもありますから、症状を改善するためにはウイルスの増殖だけでなく、炎症も抑える必要があります。

そこで使われるのが、抗炎症薬です。

 

まずメロキシカムという種類の、1日1回の飲み薬があります。他にはデキサメタゾンメタスルフォベンゾエーナトリウムという種類のお薬で、こちらは胸水や腹水が溜まっている場合に、5日おきに1回注射します。

他には、プレドニゾロンという種類の、1日1回の注射薬と飲み薬があります。

 

なお、抗ウイルス剤単体での治療効果はあまり高くないため、抗炎症剤と併用することが多くありますが、副作用や治療効果を考えながら、最終的には量を減らしていきます。

 

 

◆Xraphconnによる治療

そしてXraphconn(ラプコン)による治療があります。日本では未承認のお薬ですが、上記に紹介した抗ウイルス剤や抗炎症剤が症状を緩和するための対処療法であるのに対し、こちらは病気を克服する方向性の治療として近年注目されています。

カプセルでの飲み薬などの形があります。

 

まだ新しい治療法で、動物用医薬品ではなく未承認動物用医薬品という位置付けではありますが、ウェットタイプのFIPにかかった飼い猫141匹に投与したところ、116匹の猫ちゃんが生き残ることができたというデータが得られています*1。またドライタイプや混合タイプのFIPの猫ちゃんにも効果が期待できるという報告もあります*2。

 

また、猫腸コロナウイルスに感染した猫29匹に投与した結果、実験終了の約5か月間は最初しなかったというデータも発表されています*3。

 

今のところは高価であり、海外からの輸入の手続きなど課題は多くありますが、治療効果の高さが注目されており国内でXraphconn(ラプコン)を導入する医院は徐々に増えつつあります。

 

 

◆モルヌピラビルによる治療

また最近では、モルヌピラビルという人間のコロナで使われている治療薬も注目されてきています。重篤な副作用の報告があるため海外では第2選択薬としての位置づけになっていますが、価格が安いために日本国内では扱う病院が最近増えています。

 

ただ、モルヌピラビルは「GS-441524」に耐性のあるFIPウイルスに対する治療として使われるケースがありますが、今度はモルヌピラビルそのものに薬剤耐性を持つウイルスが増えてしまう可能性があり、こうした観点からも慎重に使用するべきではないかとも言われています。

 

 

▶治療にあたって注意すべきこと

FIPの診断や治療については、まだ様々な研究が進められているところです。

 

方法によって費用も異なりますし、絶対的に正しいと言える治療方法がない中ですが、なるべく良い選択をしてあげたいというのが飼い主さんのお気持ちですから、医師とじゅうぶんに相談して治療方法を選んでください。

 

また、猫ちゃん用のお薬として、個人販売の偽物が出回っていることもあります。偽物に騙されないように、お薬選びは必ず病院で行ってください。

 

 

*1

Masato Katayama,  Yukina Uemura「Therapeutic Effects of Mutian® Xraphconn on 141 Client-Owned Cats with Feline Infectious Peritonitis Predicted by Total Bilirubin Levels」(2021)

https://www.mdpi.com/2306-7381/8/12/328

 

*2

Masato Katayama,  Yukina Uemura「Prognostic Prediction for Therapeutic Effects of Mutian on 324 Client-Owned Cats with Feline Infectious Peritonitis Based on Clinical Laboratory Indicators and Physical Signs」(2023)

https://www.mdpi.com/2306-7381/10/2/136

 

*3

Diane D.Addie他「Oral Mutian®X stopped faecal feline coronavirus shedding by naturally infected cats」(2020)

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0034528819312056