猫ちゃんのFIP(猫伝染性腹膜炎)は非常に怖い病気であり、早期の発見、治療に結びつけたいものです。

 

一方で、FIPの診断はなかなか難しいとも言われています。

 

ここでは、FIPが疑われる猫ちゃんに対してどのような検査が行われるのか、また、どのような基準で診断されるのかなどについてご紹介していきます。

 

 

 

多岐にわたる症状

FIPの症状は多岐にわたりますが、まず初期症状としては以下のような点に注意します。

 

・抗菌薬に反応しない発熱

・食欲不振

・元気がなくなる

 

といったものです。

なお、混同されがちですが、「抗菌剤」と「抗ウイルス薬」は別のものです。

 

もともと「菌」と「ウイルス」には違いがあります。菌はじゅうぶんな栄養や水分などがあれば自分で増殖していくことができますが、一方で、ウイルスは自分の力だけで増殖することはできません。

ウイルスは自分で増えるというよりも、人や動物の細胞に入り込んで自分のコピーを作らせる、という方法で増えていきます。ほかの細胞を壊すことで、ようやく増えることができるのです。

 

そして「抗菌剤」が表面にある菌の増殖を抑えるのに対し、「抗ウイルス剤」はウイルスを不活化、つまり感染力を失わせるためのものです。

 

 

病気が進行するとみられる症状と診断

そして、病気が進行すると以下のような症状が見られるようになります。

 

・可視粘膜の黄疸や蒼白

・呼吸困難

・中枢神経に病変がある場合は神経症状(ふらつき、発作、震えなど)

・乳び胸(乳白色のリンパ液が胸水として溜まる)

・目の濁り、目の色の変化、眼球の拡大など

・お腹の急な膨張や波動感 など

 

このように、外見に出る症状は非常に多岐に渡っています。しかし「FIPにだけ見られる症状」というのがないという特徴があります。

よってFIPの診断は、こうした症状の有無に加え、猫ちゃんの年齢や飼育背景などを加えて総合的に判断していくことになります。

 

 

FIP診断のためにはどのような検査をする?

さて、これらの要素を踏まえて、実際には以下のような検査をします。

 

▶身体検査

まず最初に行うのが身体検査です。

体温測定、体重測定、脱水の有無、目の観察、神経学的検査などで異常があるかどうか確認します。

 

▶血液検査

そして血液検査です。主に以下のような項目をチェックします。

 

・CBC(血球数算定検査):

 FIPの猫ちゃんで貧血やリンパ球の減少がよく見られるほか、白血球(とくに好中球や単球)の増加が見られることもあります。ただ、リンパ球の減少はストレスでも起きる反応ですから、これだけでFIPとは断言できません。

 

・生化学検査:

 血清中の成分を分析します。FIPの猫ちゃんでは、高蛋白質血症がよく見られます。蛋白質の中でも、グロブリンが増加し、それに伴うA/G比(アルブミン/グロブリン比)の低下がみられます。また、肉芽腫性肝炎や腸の肉芽腫性変化が起きたり、血管炎で腹水や胸水が貯溜したりしている場合はアルブミンの濃度が低下します。

FIPの猫ちゃんではA/G比が最適値より大きく外れがちです。

 

・抗体検査:

 体内のウイルスの有無を調べます。ただ、低い抗体価でも発症する場合や、高い抗体価でも発症しない猫ちゃんもいます。また、ほとんどの猫ちゃんは、強毒化する前のFCoV(猫コロナウイルス)に対する抗体を持っていますから、抗体の有無だけでFIPとは決められません。しかし抗体価が極端に高く、かつ他の臨床症状もある場合はFIPである可能性が出てきます。

 

 

▶体内に貯溜液がある場合

腹水や胸水が溜まっている場合は、これらの水を採取して検査を実施します。貯溜液はFIPかどうかを診断する重要なサンプルです。FIPの猫ちゃんの場合、液体は明るい黄色でねばねばしており、蛋白質濃度が高く、比重が高いという特徴が現れます。

また、必要に応じて脳脊髄液の検査を実施することもあります。

 

 

▶画像検査

神経症状がある猫ちゃんの場合は、MRIやCTによる画像検査も情報収集の手段になります。ウェットタイプのFIPを発症している猫ちゃんでは胸水や腹水が見つかりますし、ドライタイプの猫ちゃんの場合は腹腔内にしこりのようなものが見られる場合があります。
また、特徴的な脳炎の所見があったり、脳脊髄液の増加による脳圧上昇、水頭症所見などがわかります。

 

超音波検査では、臓器に腫瘤などの異変がないかどうかを見ることができます。

 

 

▶病理組織検査、免疫組織化学染色

内蔵などの組織の一部を取り出し、状況を確認するのが病理組織検査です。FIPが疑われる猫ちゃんの場合、血管炎や肉芽腫が見つかることがあります。

また、免疫組織化学染色は、抗体を使って組織内のウイルスを検出する検査ですが、抗原になるウイルスが検出されなくてもFIPの可能性を全否定することはできません。

 

ただ、他の検査でFIPが疑わしくなかったとしても、病理組織からの免疫染色で陽性反応が出れば、FIPの線が濃厚になります。

 

 

▶PCR

腹水や胸水を採取しPCR方法を用いることでウイルスを検出することができます。血液や糞便、脳脊髄液、腹腔内腫瘤、腎臓、肝臓、リンパ節、眼房水を採取することもあります。
胸水や腹水からPCRでウイルスが検出されなかった場合はFIPである可能性は低くなります。

しかし、その猫ちゃんがどの程度FIPの要素を持っているかによっては必ずしもPCRの結果が有用とは言えない場合があります。
 

 

 

ひとつひとつの数値に一喜一憂せず、根気よく見守りましょう

このようにFIPの診断は、なにかひとつの要素で決められるものではなく、たくさんの方向からのアプローチによる総合判断という形を取ります。

 

いくつもの検査が重なったり、その都度良い数字・悪い数字も出てくることでしょうが、ひとつひとつの検査結果だけでははっきりしたことはわかりませんし、病気でない猫ちゃんでも一部では高い数値を示すこともあります。

 

ただ、早期発見こそが治療への近道です。かかりつけの病院でFIPかもしれないという疑いが出た時点で、その病院での検査結果を待たずに、FIP治療の実績がある専門病院に相談に行くことをおすすめします。

 

 

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今日もここまでお読みいただきありがとうございました!

 

次回はFIP再発のお話についてまとめていこうと思います三毛猫

 

 

ブルーム動物病院で里親募集中のよりちゃんですクローバー