アキモトは、東京へ急いでいた。
1998年9月16日。
早朝、弟が危篤との電話があった。
彼は急いで電車に飛び乗り、東京へと向かう。
ところが、途中で2時間以上も足止めをくらうことになった。
おりしもその日は、関東地方に大型の台風🌀が接近していた。
JR線のどこかの変電所に、落雷があったようだった。
そのため安全が確認されるまで、電車は発車できないとのアナウンスがあったのだ。
弟が死んでしまうかもしれないという日なのに、しかもあと少しで都内に入るという所まで来ていながら、結局2時間半も電車の中で待つことになってしまった。
アキモトは目を閉じた。
弟との思い出が、いくつか頭の中をよぎった。
「兄ちゃん!そんなに深く穴を掘っちゃうと、地下鉄が出て来ちゃうよ!!」
幼かった弟がかつて言っていたことを想い出し、ふと少しだけ笑みが出た。
その刹那、アキモトは遠くに雷鳴を聞いたような気がした。
これまでに経験したこともなかったような激しい雷鳴だったが、不思議なことに音は無かった。
無音の雷だったのだ。
しかし、アキモトの耳には、確かにハッキリと、その雷鳴は聞こえた。
その時ふと、弟は他界してしまったのかもしれない、と思った。
弟が生きていた1950年代から1998年までの世界が消えてゆく(ワイプアウトするみたいにして)。
ワイパーが現実の世界を消すと同時に、代わりの世界がアキモトの目の前に拡がってきた。
その新しい世界は、以前の世界と比べてみても、全く同じように見えた(寸分違わないのだ!)。
だから電車に乗っている他の乗客たちは、そのこと(世界が代わった)について、誰も気づいていないようだった。
だが、アキモトが目を上にあげてみると、網棚に置いていたはずのカンゴールのボストンバッグが消えていた!
近くの席で声高に話しているギャル風女子高生のスクールバッグの中に、もしもペンポーチが入っていたとしたら、
その中にカンゴールのシャープペンが入っているのかもしれないが(その当時、大人気だったのだ!)、おそらくそれも消えているはずだ!と、アキモトは直感した。
だが、女子高生たちは相変わらず夢中で喋り続けている(まるで、喋ることがとても大事な仕事でもあるかのように)。
学校に着いた時、彼女たちはペンポーチの中のカンゴールのシャープペンが消えていることに気づくだろう。
「しかし、そのシャープペンがまさかパラレルワールドに移ったなんて、イマジンすることはないだろうな!」
あたしって、おっちょこちょいだから、きっとどこかに落としちゃったのかもしれないなんて、思うに決まっている。
モノが突然消える時は、大抵の場合、瞬間移動して別の世界(パラレルワールド)に移っていたりするものだ。
アキモトは、これまでにもそういったことをちょくちょく経験もしてきた。
「しかし、まいったな!あのカンゴールのボストンバッグの中には、けっこう大切なものも入っていたのに!」
それでも、仕方がない。
そうなってしまったからには、カンゴールの存在しない世界で生きてゆくしかない。
(そうなる羽目になってしまったのだから)
1998年から1999年にかけては、カンゴールの他にもいろんなものが消えていった。
そして同時に、新しい世界が開いていった。
今思えば、まことにカオスな年だった。
さまざまなものが消え、さまざまなものが生まれた。
アナログから、デジタルな世界に突入した!!