涙💧が暮らしている町に、一軒の小さな洋食屋があった。
涙💧はそこで、いつも好物のチキンライスを食べる。
お金に余裕がある時は、少し奮発してオムライスに格上げするが、たいていの場合は120円安いチキンライスにするのだ。
今日もそのチキンライスを美味そうに食していた。
その時、洋食屋のテレビでは昼のワイドショーが流れていた。
ある地方の町長が、その町長を取材に来た新聞社の女性記者に対しハレンチな行為に及んだという、事件ともいえない事案が報道されていた。
その女性記者の告発によれば、早朝彼女が泊まっている宿まで突然町長がやって来て、激しくドアがノックされたので、開けてみると、いきなり町長に抱きつかれた上、数回に渡りキスをされたと云う。
町長の弁明によると、ハグをしたのは間違いないが、キスをしたかどうかの段になると、鮮明な記憶がないようだった。
彼の表情からは、嘘の証言をしているようには見えなかったし、どちらかといえばきわめて誠実そうな面立ちをしていた。
そこで、涙💧は探偵という職業柄、次のようにアナロジーしてみた。
おそらく女性記者も、そして町長も、嘘は云ってないだろう。
町長の記憶があいまいなのは、それが彼の中では現実に起こったことではなく、非現実の世界の中で起こっていたからなのだろう。
つまり、一瞬の間だけ、現実と非現実が入れ替わってしまったのだ。
涙💧にも、時々ある。
昔起こった出来事に、少しもリアリティ-が感じられないことが。
本当にあったことなのだろうか?と思わず首を傾げてしまうようなことはよくあったりする。
多分、町長と女性記者はあきらかにソウルメイトであろう。
前世又は過去世では、夫婦か恋人か、あるいは愛人関係にあったのではないか?
今世では、たまたま町長と新聞記者という一期一会のような接点しかこれまでなかったのだが、その女性記者から取材を受けた時、町長の潜在意識は、前世での大切な人が目の前に現れたと感じたのにちがいない。
町長の談によると、朝彼が髭を剃っている時に、彼女の「きゃあー、助けて!」という悲鳴が(非現実の中で)突然聞こえたと云う(テレビでは幻聴だと報じていた)。
そこで彼は半ば無意識のうちに助けに向かい、彼女の無事な姿を見るや安心して、前述の通りにしてしまったのだろう(前世での夫婦あるいは恋人にしていたように)。
実際にそのようなことが、前世にあったのだ。
彼にしてみれば、その時の再現をしただけなのかもしれない。
でもそんな言い訳のようなことを、いったい世間の誰が信じてくれるだろう?
マスコミに報道され、テレビのコメンテーターからも非難され、町長は職を辞したようだ。
ふと目線をテレビから離すと、斜め前のテーブル席に座っている父娘と思われる二人も、涙💧と同じチキンライスを食べていた。
父親は朱夏世代の40代、娘さんは小学5年生ぐらいに見えた。
しかし二人共、どこか現実感が希薄だった。
紙に描かれた絵のような父娘だった。