大きな湖のある郊外の町で、息子を愛するシングルマザー麦野早織(安藤サクラ)や生徒思いの学校教師の保利(永山瑛太)、そして無邪気な子供たち・湊(黒川想矢)と依里(柊木陽太)。無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。

そんなある日、学校でケンカが起きる。湊が、耳に怪我をして学校から帰って来た。

よくある子ども同士のケンカのようだったが、彼らの食い違う主張はやがて大人や社会、メディアを巻き込み、大事になっていく。

そしてある嵐の朝、子供たちが忽然と姿を消す……。 

映画『万引き家族』で、第71回カンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和が監督を務め、数多くの人気作品の脚本を手掛ける脚本家・坂元裕二がタッグを組んだ映画、『怪物』。先日開催された第76回カンヌ国際映画祭では、脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したことでさらに注目が高まっている。

















ストーリーは、シングルマザーの早織、生徒思いの教師の保利、早織の息子の湊と学校でいじめられている佑里、3方向から学校で起こったいじめ事件の真相や湊と佑里が隠した事実がいわゆる「羅生門」スタイルで描かれる。

早織と学校のバトル、母である早織に何かしら隠してる湊の苦悩を描く第1章では、早織を演じる安藤サクラと校長先生を演じる田中裕子のぶつかり合う白熱した演技バトルと保利先生を演じる永山瑛太の温度差の落差、早織と校長先生の言い合いの噛み合わなさの可笑しさが惹き込まれていく。

保利先生目線で、学校で起こったいじめ事件の顛末が描かれてる第2章では、第1章で描かれなかった保利先生の違う面にゾワゾワしつつ、事なかれ主義と保身に終始する校長先生たちの学校側や保利先生の周りから見捨てられていく保利先生のぼろぼろになっていく追い詰められ方にイヤな感じになっていくイヤミス的な学園サスペンス展開、保利先生や早織そして湊のもうひとつの面から浮かび上がる物事の捉え方の思い込みや価値観が知らず知らずのうちに歪めて傷つけてしまう「コミニケーションの加害性」、保利先生と早織や保利先生と湊の勘違いとすれ違いによる「コミニケーションの断絶」が、細かに仕掛けられたミスリードと共に描かれている。

早織の息子の湊といじめられっこの佑里の本当の関係が描かれていく第3章では、湊と佑里が早織や佑里の父に言えなかった秘密や「普通」という価値観に抑圧された湊と佑里の「銀河鉄道の夜」「禁じられた遊び」オマージュの瑞々しい儚い友愛が描かれていて、「普通」「当たり前」という価値観や自分の思い込みを思考停止して信じてしまった時に真実を見失ってしまう「コミニケーションの加害性と落とし穴」にハマった人がまさに「怪物」なのだなと、SNSで浅い根拠で浅い正義感で断罪して誹謗中傷するヤツらが止まない不寛容な現代に問う問題作で、安藤サクラや永山瑛太や田中裕子や黒川想矢や柊木陽太の演技が見事でした。

「かいぶつ、だーれだ?」