沈黙を守ることは、犯人と共犯になってしまう──

最後の誇りが矢萩路子を告訴に踏み切らせた。

襲った犯人はすぐ割れたが、男は和姦を主張。事件は裁判に持ち込まれた。

被害者であるのに過去を暴かれ、好奇の目に晒され、路子は職場を、恋人を、ささやかな日々を失った。

強者の論理、レイプを告発する問題作。

レイプという性犯罪は、肉体だけでなく自尊心や魂を傷つけ、警察での事情聴取では事件当時の行動や服装や過去の男性関係や学費を稼ぐためにしていたホステスの経験や中絶したことを「被害者の処女性を証明するため」という名目で男性刑事から興味本位であげつらわれ、服装や恋人に送ってもらわなかったことなどを被害者の落ち度として責められるセカンドレイプを警察の事情聴取や裁判で被り、恋人との関係や社会生活を狂わされてしまう。

 また性犯罪が、刑事裁判で重い刑になるかどうかが、死の危険がある脅迫下にあったか必死になって抵抗したかなどなどが一番重要視される法律上の不備。 

レイプという性犯罪の被害者になった矢萩路子の目線を通して、被害者となった屈辱感や警察に自分の被害を訴えるべきか忘れてなかったふりをするべきか躊躇する葛藤や警察の事情聴取と裁判で「被害者にも隙があったんじゃないか」「和姦だったんじゃないか」「慰謝料目当てだったんじゃないか」と世間の偏見に苦しめられる苦悩が生々しく描かれている。 

落合恵子さんが、この小説に込めたメッセージは、裁判での唐沢杏子検事の「強姦が、犯罪として立証しにくい社会は女性の人格を軽く見てる社会と言える。それは、人間そのものを軽視し切り捨てる社会と言える。性犯罪の裁判は、日本の文化の成熟度が問われる裁判」という最終論告に込められている。落合恵子さんが、強姦という性犯罪の被害者の苦しみや法律の不備を啓蒙してくださったおかげで、性犯罪に関する刑法が改正され「不同意性交罪」が成立した点でも男女問わず必読の社会派ヒューマンサスペンス小説。