2013年の新語・流行語大賞にノミネートされた「ヘイトスピーチ」なる現象は、年を追うごとに拡大している。当初は、東京・新大久保界隈における在日韓国・朝鮮人に対しての罵詈雑言ばかりが注目を集めていたが、いまや対するヘイトスピーチは全国規模に拡散。また、Jリーグのサッカー会場に貼られた「JAPANESE ONLY」という横断幕が、民族・国籍の差別を助長するとして問題視されもした。さらに、ヘイトの矛先は、中国やイスラムにも向けられている……。
はたして、被害者を生み出すばかりの「排外主義」、この拡大を食い止める術は、あるのだろうか?ネットの中で醸成された右翼的言動、いわゆる「ネトウヨ」が、街頭デモにまで進出してきたのは何故なのか? その代表格とされる「在特会」とは一体、どんな組織なのか? デモに参加するのはどんな人たちなのか?こうした幾つもの疑問に答えるのが、本書。在特会問題を取材しつづけ、2012年には『ネットと愛国』で講談社ノンフィクション賞を受賞した実力派ジャーナリストによる、「ヘイトスピーチ」問題の決定版!
2014年8月20日21日に行われた国連人種差別撤廃委員会の日本審査が行われ、各国の委員から「何故日本はヘイトスピーチを容認しているのか」「何故ヘイトスピーチを取り締まるための法整備が出来ないのか」「警察はヘイトデモを守るために機能しているのか」厳しい意見が相次いだ。ネトウヨによるヘイトデモが一過性のものではなく深刻なものと理解されたのは、2009年に埼玉県蕨市で起きた「カルデロン一家追放デモ」で「至近距離で当事者にダメージを与える」というヘイトデモの定石を作った。
ヘイトデモの攻撃対象は、在日韓国人などの定住外国人や韓国などの近隣諸国。排外主義を煽り外国人への露骨な差別と偏見を主張するのが、ヘイトデモの特徴。
ヘイトデモでのシュプレヒコールもプラカードからも、デモによって何かを獲得しようとする真剣な姿勢も訴えることで社会を変えようとする思いを見ることが出来ない単なるうっぷん晴らしに過ぎない、一水会の鈴木邦男氏は「あの人たちは愛国者を気取っているけど、むしろ国を冒涜している。口汚く罵倒することが愛国と信じるなら、日本にとって良い迷惑だ」と一刀両断したほど。
在特会会長の桜井誠の在日韓国人に対する憎悪のルーツは、高校生時代の朝鮮学校の学生に対する憎悪そして自身が作り上げた在特会が生き甲斐だからという歪んだ自意識から来ている。
在特会が主張している在日特権とは、むしろ在日韓国人は日本に帰化するなどして数が少なくなっているし日本で暮らすための補助的救済的なものにとどまっているのに、在留資格の更新や帰化には納税証明書が必要なので在日韓国人が税金を払っていないというのはデマ、帰化には法務局が1年近い調査の上で許可するが交通違反だけで不許可となるので在日韓国人が犯罪者予備軍というのはデマ、通名を名乗っているのは戦後の特別永住者だけで在留資格の更新の際に許可の前提となる事情が失われれば在留資格を受けられないという事情を無視した事実の断片を継ぎ合わせたネガティブキャンペーンに過ぎない。
ヘイトスピーチの定義は、人種、民族、国籍、性、などのマイノリティに対し向けられる差別的な攻撃である。
ヘイトスピーチの最大の醜悪な要素は、ヘイトスピーチを向けられた相手が即座に抗弁出来ず自身の存在を全否定された絶望が残ること。
京都朝鮮学校襲撃事件は、朝鮮学校の学生から公園を平穏な日常を奪う卑劣なヘイトクライムだった。
ヘイトスピーチ的な人種差別意識は浦和レッズの試合が行われた埼玉スタジアムでの「日本人以外お断り」と書かれた横断幕が掲げられたことでも、明らか。
ヘイトスピーチが増加するきっかけが、2002年のワールドカップだった。何故警察がヘイトデモを守るのか、それは事前の届けを逸脱しない限りデモの現場における差別集団は合法的存在になってしまうから。
「エルクラノ殺害事件」など小さな誤解やトラブルから、人種差別に繋がるケースが、増えている。
ネット上でネトウヨのカリスマと呼ばれたSというツイッターのアカウントの男と安田浩一さんの対決は、ネトウヨ特有の匿名性に隠れた歪んだ被害者意識と安田さんのヘイトアカウントとの戦い方が分かる良いお手本です。
在特会会長の桜井誠が辞任したのは、大阪市などのヘイトスピーチ批判をかわすため、退会する会員の増加への対策のため。
在特会などヘイトスピーチに対する逆風が、京都朝鮮学校襲撃事件の民事訴訟で1200万円の賠償と街宣差し止めを命じた判決が確定し、2014年8月には国連人種差別撤廃委員会が在特会の活動を人種差別と断じて日本政府に法整備を求める勧告を出して、去年12月には在特会のヘイトスピーチは人権侵害と断じてヘイトスピーチの差し止めを求める勧告を出した、ツイッターの禁止事項にヘイトスピーチが加わるなどの形で強まり、人種差別撤廃条約4条「あらゆる人種的優位・憎悪に基づく思想の流布、扇動、暴力行為、資金提供も法律で処罰すべき違法行為であることを宣言する」の留保が外れ人種差別撤廃法案への道のりが築かれつつあることが東京国立市議会が社会的マイノリティの差別を禁止する新たな法整備を求める意見書を国に提出し大阪・門真市のように既存の条例を活用して人種差別団体に市の施設を使わせない方針を打ち出した自治体も出てくることで明らかになった。
排外主義と戦うためにヘイトスピーチとは何なのか理解するための必読書です。