昼の光と夜の闇 | 彼女が結婚したとしても

昼の光と夜の闇

5、600m泳いだ。

泳いでいる間は、水の掻き方とか足の動かし方とか

水中姿勢とかだけを考えていればそれでよかった。

全力で泳げば、息が乱れ、普段使わない筋肉たちが悲鳴を上げた。

その後、大胸筋と腹筋、背筋、上腕を鍛えた。

80kgのベンチプレスが1回しか上がらなかった。

仕方なく、50kgを20回×3セットした。

筋トレをすれば、彼女のことを忘れられるはずだった。

しっかり彼女はおれの頭の中に登場した。

体を作り直すことで、彼女が振り向くはずもないのに。


*

おれは彼女に、他のやつの助手席になんて乗らないでくれと言った。

彼といる彼女の返信は遅く、その時間におれを冷静にさせた。

おどけた本音ではないメールを送ったら、彼女からの返信が来た。

また隣に乗せてね、と彼女は言った。

ついさっきまで、彼の運転する車の助手席で幸せそうな笑顔を浮かべていたんだろう

と考えるととてもやるせない気持ちになった。


 * *


彼女はこの金・土で、彼と先方の両親と、彼女の両親とで旅行に行っている。

この旅行で、彼女は完全に現実的な、完璧にすべてが決定事項となった世界を見ただろう。

そして、彼女の世界にはおれは出てこない。

出てきたとしても、もう”ともだち”としてなんだろう。

彼女を愛している男ではないんだろう。

まして、3年後に結婚する相手ではないんだろう。

彼女に会いたいのに、次に会う彼女は現実的世界に目を向けて

おれになんて目もくれないんじゃないか、そう思うと怖い。


耳の奥で聞こえる。地獄への招待状に書いてあるのもきっとこんなだろう。

”私の幸せを邪魔しないで”


誰も知らない海が荒れている。

誰も知らない島の木々が倒れている。


誰でも知ってる街で、彼女は彼に抱かれ今日も眠る。


”昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか”と誰かが言ったことを思い出した。


* * *


おれは、いつも、ひとりぼっち。


神は死んだ、って誰かが言ってたな、と思いながら目の前のウィスキーを一気で飲んだ。