ただ、彼女を幸せにしたいことについて
ホットペッパーで個室の店を探して入った店だけど
通された席はいつもの居酒屋と変わらない感じだった
彼女はいつも通り、カシスオレンジを頼み、おれはビールを頼んだ。
料理は3品しか頼まなかった。
ビール何杯か飲みながらおれの想像する彼女との生活について話した。
そのどれをとっても幸せに感じると思うんだ、と言った。
彼女はおれといることはとても幸せなことだとわかっていた。
だから言っただろう、おれと君は100%なんだってと言った。
彼女は今日も、とても可愛かった。
黒のニットがほっそりとした素敵な体に似合っていた。
その笑みが僕を安心させたし、その笑顔の隣で暮らしたいと思った。
彼女は下を向いて、おしぼりで遊んだりしていたが、ずっと彼女を見ていた。
彼女はやっぱりおれにとって100%だと実感した。
店を出てタバコを吸いながらエスプレッソを1杯飲んだ。
彼女は手に取りそうなマシンガンを手に取らなかった。
だけど、おれと一緒にはなれない、としっかりと言った。
そう簡単に離婚できないように、結納に時間とカネをかけた、と彼女は言った。
そんなの関係ないよと言ったが、宇宙空間でモノをなくしたみたいに
その言葉はどこにも刺さらず、どこかへ飛んでいった。
おれの心もまた飛んでいった。
新宿駅で彼女とぎこちない笑顔を作り別れた。
*
今、家にいる。
ヘッドフォンからは大音量で音楽が聞こえる。
ふと、どうやって帰ってきたかを忘れいることに気づいた。
思い出そうとすれば、覚えていた。でも、あんまり覚えてなかった。
なぜ、コンビニでウィスキーを買ったのか、その判断基軸までは思い出せなかった。
記憶は、重要なものとそうでないものを区別している。
誰かが頭の中に入って、これは重要だからこっち、それはいつも通りだからあっちと
仕分け作業をしているようで、おれの記憶の断片をなくさせる。
彼女との時間は、とても重要なことだから、しっかりと記憶できる。
でも、彼女はおれに振り向いてはくれない。
おれがどれだけ愛していても、重要な時間として位置づけていても
それは変わらないんだろう。
彼女はモテるだろうし、誰かから思いを伝えられること自体慣れている。
そして、彼女の頭の中の派遣バイトたちが、それはいつも通りって忘れる方に持っていく。
そして、いつかおれの存在自体ぼんやりとした帰り道の記憶のようになっていく。
だから、この意味のない文章をたらたらと書いている。
彼女と一緒になりたい、と本気で思うし、それが実現すればこの文章たちも報われる。
彼女と一緒になれない場合、記憶の保存としての一助になるだろうし
おれと彼女の部分的自己療養にもなりうるだろう。
*
彼女も、おれが100%なんじゃないか、って思ってる。
でも、彼女は動かない。
彼女をとても幸せにしたい。
だから、彼女には、結婚おめでとうも、幸せになれよも言わない。
絶対に言わない。
おれが幸せにする、となら誰にでも聞こえる声で言う。
それしか言わない。