世界一の朝、世界一の夕方について
彼女が朝(あるいは昼)に電話をしてくれて、
おれがその安らぐ声で目覚めることは
世界が変わるくらい素晴らしいことなんだな、と考える。
雨が降っていて、スーツの裾がずぶ濡れになるような朝も
オーブントースターで焼かれている様な暑い朝も
季節の変わり目を感じる肌寒い朝も
夜積もった雪のせいで部屋中真っ白に感じるような朝も
彼女の隣で目を覚ますことができれば
それは、どれも最高の一日の幕開けになる。
そして、夜もきっとそうだ。
どんな最低でファックな一日も彼女の隣で眠りにつければ
きっとそれは慰めとして最良のものだろうし
明日を最高のものにするための勇気にすらなる。
*
そして、世界一の朝を迎える。
それは世界の端っこにあるちっぽけな朝だとしても、誰より幸せな、世界一の朝だ。
彼女の声で昨日もその前も目を覚ますことが出来た。
それは、振り返れば世界一の朝だったし、絶望しかない世界で唯一の救いだった。
* *
そして、その世界の救いは、夕方なのに、ふいに舞い降りてきてくれた。
明日彼女と二人の完全な時間と空間と、少しの感情を共有することを許された。
──彼女からの"秘密のデート"の誘い。
*
彼女は南北線でおれの隣に座り、笑ったり、まじめな顔をしたりした。
彼女の笑顔はおれをどこまでも和ませ、彼女のまじめな顔はおれをおどけさせた。
「バイバイ」は、この世の終わりのセリフにも使えるくらい絶望的だったし
3軒飲み歩いてもそれはおれの心を蝕んだ。
あの一言のように。
でも、明日は忘れよう。そう努力しよう。
現実を現実と受け止めて、おれは努力し始めた。
明日は、それとは関係がないんだから、忘れよう。
じゃないと、彼女がくれた世界一の夕方の意味がなくなってしまう。
世界一の朝は来たとしても、世界一の夜は来ないのだから。