二つの祖国 山崎豊子
あらすじは文庫から抜粋します。
<上巻>
アメリカに生まれ、アメリカ人として育てられた日系二世たち。しかし日米開戦は彼らに残酷極まりない問いを突きつけた。日本人として生きるのか、アメリカ人として生きるべきか?ロサンゼルスの邦字新聞『加州新報』の記者天羽賢治とその家族の運命を通し、戦争の嵐によって身を二つに切り裂かれながらも、愛と祖国を探し求めた日系人たちの悲劇を浮き彫りにする感動の大河巨編!
<中巻>
合衆国へ忠誠を示すため、米軍兵士としてヨーロッパ戦線に散った末弟・勇。そして日本軍兵士として出征した次弟・忠。自らも米軍少尉として南太平洋に配属された賢治は、血を分けた弟と戦場で会うことを恐れていた…戦争は天羽一家の絆を引きちぎり、彼らのささやかな希望も夢も呑み込んで荒れ狂う。祖国とは何か?国を愛するとは何なのか?徹底した取材で描く衝撃的ドラマ!
<下巻>
東京裁判法廷に白熱の攻防戦が繰り広げられ、焦土の日本に判決の下る日も間近い。戦勝国と敗戦国、裁く者と裁かれる者、いずれも我が同胞なのだ…裁判の言語調整官を勤める天羽賢治は、2つの祖国の暗い狭間にいよいよ深く突き落とされていく。妻との不和も頂点に達し、苦境に立つ賢治。彼を見守る梛子の身体にいつしか原爆の影が忍び写る…。壮大なスケールの感動大作、完結編!
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山崎豊子氏の長編作品は「大地の子」を除いて全て読みました。
氏の長編作品は基本フィクションなのですが、(恐らく)白い巨塔を除いて、全て実話をベースにしています。
なので厳密には小説とは言いづらい部分があります。事実をベースに、オリジナル風ストーリーを書くのが氏のスタンスです。この姿勢のため関係各方面から訴えらたりもしています。
こう書くと「まがいもの」感がでるのですが、氏の取材・調査は膨大であり、作品としては上質なものだと私は思います。
<下巻>の殆どは東京裁判について書かれています。
私は、この作品で初めて東京裁判のコトを詳しく知りました。
この巻の特徴は主人公の日系二世を東京裁判の通訳者として描く小説的部分、
そして東京裁判の史実的部分が描かれているところです。
小説的部分では、裁判において主人公が被告(所謂戦犯と呼ばれる方々)の命、国家に関わる証言をどれだけ正確に訳せるか、誤訳を行ってしまった際には、それが判決に大きく影響をあたえること、日本語の内側にある深い意味を訳すことの難しさなど、日系二世だからこそ抱える悩み、苦しみを描いています。
東京裁判を描く史実部分では、裁判が戦勝国の政治ショーであったことが丁寧に書かれています。
小説という物語の体裁を取っているので、裁判官、日本側弁護士、被告、証言者、検察、参考人の発言も一連の流れの中で知ることができます。恐らく、他の東京裁判について書かれている書籍よりも数段に分かりやすいものだと思います。これを読めば東京裁判の流れ、背景はかなり理解できると思います。
二つの祖国のハイライトは東京裁判だと思いますが、この作品は物語としても大変興味深いです。
先の大戦において、日系の方々がどれだけ辛い目に合ったか、そして、あの時代をいかに生きたか、二つの祖国を持ってしまった二世の苦しみと葛藤が物語を貫くテーマになっています。
でたらめな自虐史観の原点がどのような形で生まれたのか、
そして、なぜ自虐史観がでたらめなのかを知るには東京裁判は避けて通れません。
一度お読みになられることをお薦めします。
まったくの余談ですが、氏の最新刊はつまらない作品でした。
こちらはお薦めできません。