本日はアナミ定例勉強会。
久々に私から発表させてもらいました

内容はルーペの倍率表記と焦点距離について。

正直、高校時代私立文系で数学・物理からできるだけ遠ざかって過ごしていた僕ですが、ロービジョンケアに携わりしかも光学補助具を取り扱っている以上、幾何光学はどうしてもさけて通れない分野で…

40を越えての手習いです。
今、検証しながらまとめている内容を備忘録代わりに書いておきます。


まず、ルーペ含むすべてのレンズは、焦点距離を持ちます。
いまさらながらの公式ですがディオプター(以下D)=100/距離(cm)
つまり、25cmの距離に焦点をもつレンズは、4Dの屈折力を持つ、ということです。
この公式は眼鏡レンズやルーペなどの光学レンズにおいて、全ての基本となる公式。

また、レンズは全て2つの屈折面を持ち、それぞれの曲率(円のカーブ)に応じた屈折力を持ちます。
それらを面屈折力と呼び、物側、像側、それぞれの面屈折力をD1、D2とすると、
薄レンズの屈折力はD1+D2で表されます。

さらに凸レンズのルーペで、高い屈折力を持つものはレンズ中心に厚みがでるので、そうすると屈折力には厚みも考慮する必要が出てくるので、厚レンズの屈折力(D)の公式は
D=D1+D2-t/n×D1×D2 (t=厚み n=材質の屈折率)
同じ面屈折力を持っていても、レンズは厚くなるほど総屈折力は低下する、ということですね。

ただこのルーペの総屈折力、ルーペに倍率とともに「40D」とか表記されているものもありますが、メーカーによっては高倍率のものでも厚みを考慮せず単純に2つの面屈折力を足し算しているだけのものがある、とのことなので要注意です。


凸レンズのルーペは、そもそも拡大された虚像を得るためのもの。

眼が像側焦点距離の内側にある限り、レンズから離れるほど虚像は拡大されることになります(角拡大率)
よくエッシェンバッハのルーペカタログなどに書いてある、「眼とレンズの適正距離」とはこの虚像が最大になる距離を表記してあるものと思われます。

メーカーカタログなどに記載してある倍率は、基本的にこの虚像の角拡大率を基本に考えられており、よくロービジョン者へ高倍率のルーペの使用方法として指導する「眼にレンズをくっつけて」ということとは考え方が異なります(詳細後述)

そしてこのメーカー表記の倍率の注意点としてよく言われるのが、倍率表記の方法として
「倍率(以下M)=D/4」 M=「D/4+1」が混在するということ。
ここは以前から僕も疑問に思っていたところですが、今回の検証にあたって色んなルーペのDをレンズメーターで測定したり、メーカーに質問したりしてわかってきたのは、
「10D以下の低倍率のルーペはD/4+1の倍率表記」
「10Dを超える高倍率のルーペはD/4の倍率表記」

を、採用しているということ。少なくとも直接問い合わせたエッシェンバッハのルーペは全てそうなっているそうです。
根拠としては、基本的にルーペの倍率を表記する基準距離はほとんどのメーカーが25cmを採用しています。この25cmで裸眼で視対象を見た時の視角を1倍として、ルーペで見た時に何倍に拡大されたかを倍率表記されているんですが、この「25cmで裸眼で視対象を見た時」というのが曲者。
この方は25cmを明視できる4Dの調節力をもっており、ルーペを使用した際にその調節力を利用している、という考え方に基づいているそうです。この4Dを「+1」の倍率に当てはめることになります。
実際にレンズメーターで実測した、当店在庫の2.5倍表記のルーペは6Dでした。上記の理屈に基づくと、6/4=1.5、それに4D分の1倍を加算して2。5倍と表記されています。

ということは調節力が4Dを下回る高齢者や無水晶体眼の方の場合、調節力を加算できないわけですからこのメーカーの倍率表記は全くあてにできないことになりますね。



もう一つ、ルーペの角拡大とは異なる考え方として、
「高倍率のルーペを使用する場合は眼にレンズを出来るだけ近接させて使用する」というものがあります。
実際、ほとんどのロービジョンケアの現場ではルーペの使用方法としてこちらを指導しているはずですし、実際にこのように眼にルーペを近接させる方が視野も広く、歪曲収差も感じにくくなります。

ルーペは凸レンズなので、高倍率になるほど左側の糸巻き型歪曲収差が発生しやすくなります。
この使用方法は、レンズを眼に近接させることで、レンズの総屈折力の焦点距離上に視対象を置くことになります。前述の角拡大とは違い、ハイパワープラス眼鏡と同じような実像の拡大となり、相対距離拡大法の考え方となります。
相対距離拡大法は、視対象との距離と網膜像の拡大率は反比例する、というもの。
ですから、例えば30cmの視距離で0.5の視力の方が、15cmに接近すれば網膜像は2倍の拡大率を得られ1.0の視力を得られる、という考え方となります。

この場合の注意事項は、ほとんどメーカーの高倍率のルーペは、前述の歪曲収差の軽減のために非球面設計を採用している、ということ。

レンズの形状はいろいろありますが、上の画像の一番左が両凸レンズ。
安価に製造できますが、収差も大きくなるのでもっぱら低倍率に使用されています。
これに対し非球面レンズは、その横の平凸レンズとの中間。
曲率の大きい強い屈折力をもつ面と、曲率の小さな弱い屈折力を変化させた屈折面をもつレンズ。

非球面レンズのルーペを使用するにあたっては、角拡大をえるために眼から離してしようする場合は曲率の大きい(凸面の盛り上がった)方を眼にむけて、
眼に近づけて使用する場合には逆に凸面を視対象に向け曲率の小さな面を眼に近づけることで収差が最小限に抑えられます。

この収差を抑える為の表裏の使い分け、理論上はおそらく像側焦点距離上に眼を置くことで収差が最小になる、ということになるんでしょうが、今はカーブ計を持っていないので正確には検証できず、今後の宿題です。

それともうひとつ、凸面を眼に向け、像側焦点距離に眼を位置する角拡大の方がそのルーペの拡大率を極大にえられるはずなのですが、どうしても証明できる公式が見つからず、こちらも宿題として持ち越し。



まぁなんだかんだと書きましたが、結論としては、ルーペの選定には、あまりメーカーの倍率表記はあてにせずディオプタを基準に考えた方が正解だ、ということ。。
 
例えば、眼鏡店でよくあるルーペの倍率表記に頼った倍率選択の失敗例。
視力表記はわかりやすいようlogMARではなくて少数視力での表記とします。
【例】
40センチでの近見視力が、+2.50の近用眼鏡装用で0.2とする。
趣味の関係で、どうしても1.0相当の文字を読みたい(目的視力)
よく眼鏡店でh拡大率の選択を単純に「目的視力/矯正視力」と習いますが、それだとこの場合5倍の倍率が必要、と計算されます。
ですが、40cmで0.2であるなら、相対距離拡大で視距離を1/5にしてあげれば、理屈上目的とする視力が得られることになります。
すると40/5は8cm
この8cmの焦点距離を持つ度数は、12.5Dがあればいいですよね。
となると、最初の5倍は明らかにファーストチョイスとしては強すぎる倍率です、
ルーペの選定には、目的視力を達する倍率で最小の倍率、がお約束ですから。



もう少し、ルーペの倍率の基準距離となる25cmと、眼科の近方検査やMNRead-Jで測定される30cmでの倍率選択との違いについても書こうかと思ったんですが、ここまで書いててとんでもなく長くなっちゃったんで、またこの続きはいつか。