謎の文書 poor work 4-16 | 悪魔で個人的な物語

悪魔で個人的な物語

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「ん~~……夜ぅ……」
「――フン!!」
 唐突に走った激痛によって、俺は二度目の睡眠から早々と目覚めた。
 ベッドに戻らず倒れ込むように床で寝ていたのだが、その俺の腹部を思い切り蹴飛ばした人物がいたのだ。
「ぐうう……っ。何で俺がこんな目に……」
 胃酸が逆流して口の中が気持ち悪い!
「あんたが寝言で夜がどうとか言ってたからでしょ! これから雪音ちゃんに返事するっていうのに最低!!」
「え……寝言で? マジか……」
 まああんなことがあった直後だし、夢に出て来ても不思議はないな。どんな夢を見ていたのか全く記憶にないけど。
「それは確かに最低だな」
「そうでしょ? 感謝してよね」
「すまん。腹を蹴飛ばされて感謝はできないわ!」
 俺はマゾヒストじゃないしな。
 今のところ、どっちにも傾いていないはず……と思ったが、このまま力を使い続けていたらサディストになってしまいそうだ。
「全く……。一体、夜と何してたのよ。夢にまで見るなんて」
「それは言えないな……。というか何しに来たんだ?」
「はあ!? 順番に来るって夜から聞いたでしょ!」
「あ……」
 やっべ、素で忘れてた! 夜のキスで全て吹っ飛んでしまったんだな……。
 恐るべし乙女の唇。
「何よその忘れてましたって顔は!」
「いや、さすがに雪音のことは忘れてなかったよ」
「そう? なら……って、それ私のことだけ忘れてたんじゃ……!?」
「細かいことは気にするなよ」
 図星だけどなっ。
「むー……。まあ今は良いわ。それよりも返事を聞かせて」
「返事? 何のことだ」
「それも忘れちゃったの!? 女の子をふる予行演習!」
「いや覚えてるよ。けど、告白されてもいないのに返事も何もないだろ」
 というか今更夕梨香に告白されたところで意味ないんじゃないかな……。
 夜からは告白されて返事もした。あれが演技だったかどうか、今となっては確かめようがないけど……少なくとも俺は本気になれた。
 だからこそ予行演習としては完璧だったんだ。
 今はもう、予行演習であることを俺が知っているわけだしなぁ……。
「告白されてないって……夜からされたんでしょ?」
「夜からはされたよ」
「私の分は?」
「……は?」

「私の分も告白しといてって頼んどいたの!」

 夕梨香は何のよどみもない無垢な瞳で俺に訴えかけた。
「愛の告白をパシリに頼むんじゃねぇよ!!」
「パシリじゃなくて、夜にだってば」
「人づてに伝える時点で結構なマイナスなのに、そんな『ついで』みたいな感覚で告白されて喜ぶ奴がいるか!!」
「何それ……告白って面倒臭ぁい……」
「こ、この……っ」
 逆年功序列とか言ってたけど、夜が最初に来た本当の理由が分かったぞ。
 夕梨香は――女として決定的な何かが欠けている!
 恋愛感情を封印されていたからって、こうも夜と差がつくものなのか。男心をくすぐる知識が皆無だから、はなから期待されてなかったんだな。
 その点夜はエロ本で得た知識がある。……褒められたものじゃないけど。
「いいや……怒るのも馬鹿らしくなった。もう帰ってくれ。しっしっ」
 羽虫を振り払うような仕草を見せる。
「な、何それ! 先輩、私にだけ冷たくない!?」
「そんなことは……」
 あるかもしれない。夜と夕梨香を天秤に掛けた場合、ついさっきまでその重さは同じだった。ところが今はどうだ?
 夜にあんな告白をされて、裸まで目に焼き付けてしまった。下手したら先に告白された雪音よりも比重が重くなっているかもしれない。
 対して夕梨香はというと……ゲーム的に言えば何のイベントも発生していない訳で。バロメーターが初期値のままだ。
「私と夜、何が違うのよ!」
「それは……」
 夕梨香は体格に差がないことを言いたいのだろうが、ぶっちゃけそこは関係ない。
「何よ。優柔不断ね……」
「む。そう言われるのは心外だな」
 別に夜と夕梨香のどちらかを選べなくて悩んでいる訳じゃないんだ。優柔不断なんて言われる筋合いはない。
「先輩がハッキリしないのが悪いんでしょ」
「ならハッキリ言ってやるよ。お前よりも夜の方が好きだし、可愛い」
 どうだ! これ以上ないくらいに堂々と言ったぞ。
 自分でもほれぼれするくらいの男らしさ――
「……うっ……」
 夕梨香は突然、嗚咽を漏らすように震えだした。
 あ、あれ~……泣いていらっしゃる?
「うぅ~……。何でよぉ……」
「あ……そのっ」
 結構な本気泣きを見せる夕梨香に、俺は戸惑うばかり。
 へ、変だな。夕梨香は涙なんて見せるタイプじゃないと思っていたのに。旧校舎で俺と雪音の仲を認めるっていったときも、必死に涙を堪えてたし。
 我慢する素振りすら見せないってのは一体……。
「どうしたら好きになってくれるのよぉ……」
「ど、どうしたらって言われてもな……そういうのはコツコツ積み上げていくしか……」
「夜とは出会ったばかりじゃない!!」
「仰る通りです」
 ってことは、やっぱり裸とかエロ攻撃で俺は攻略されてしまったのだろうか。
 効果はバツグンでダメージも二倍、四倍と言うわけですかそうですか。
 わ、我ながら情けねぇ~……。
「男なんて単純なものなんだな……はは……」
 俺は目を逸らしつつ自嘲気味に呟いた。
 別に世の男性全てがそうだとは言ってないけども! 最低でも、嫌いじゃないのは確かだと思うのですよ。
「単純……?」
「ようはエロに弱いってこと」
 自分で言ってて悲しくなるけど。
「なら――これでっ」
「へ?」
 振り向いたときには、既に夕梨香は裸だった。
 アイドルの早着替えかよ!
 ……いや脱いだだけだよ!
「ど、どう?」
「おま、お前――っ。もう少し恥じらいを持てよ!」
「だって! 先輩が言ったんじゃない!!」
「だからって脱げば良いってもんじゃ……っ」
 しかし言葉とは裏腹に俺の視線は夕梨香の貧相な裸体に釘付けである。
「ほ、ほら照れてる! やっぱり嬉しいんだ」
「そりゃ照れるし嬉しいけども! 女の子の裸ってのは、本来紆余曲折を経てようやく拝める神秘の――」
「一切視線逸らそうとしない先輩が言っても説得力ないし!」
「そ、それは」
 違うんだよ。海に来て、この日のために新調してきた水着姿を見ようとしなかったら、それは失礼だろ? 夕梨香はわざと見せてるんだから、俺も視線を逸らしちゃいけないんだよそういうことにしておいて下さいお願いします。
「というかどうなってんだよこの羞恥心の欠落振りは! その辺については夕梨香はまともだったはずだろ!?」
「知らないわよ! 何かもう、平気になっちゃったの!」
「な、なっちゃったって……いつからだよ」
「先輩の超能力で気持ち良くなってから!」
「……えっ!?」
 そういえば夜も演技じゃなくて本気っぽかったし……その原因も、恐らく部屋で俺の力を受けたせいだ。
 俺の力ってもしかして……。
 恋と錯覚させるくらい弱めに使うと、羞恥心を失わせる効果もあるのか……!?
「お、おい! 具体的にいつだ? 俺の力を知ってからか? それとも落とし穴に落っこちたときか!?」
「え、え? そ、それはこの部屋で」
「……そうか」
 やたらと夕梨香は感じやすかったけど、力加減は夜にしたときと同じだった。
 それはつまり――雪音も同じ状態ってことだぞ!!
「やばいって! この後雪音も来るんだろ!? 結構スタイル良さそうだったし、雪音に裸で迫られたら俺の理性は崩壊! 後で後悔!」
 咄嗟に韻を踏むくらいピンチ!
「ねぇ……」
「え?」
 頭を抱えて唸っていた俺を、夕梨香のローキックが直撃した。
「痛ぇっ」
「私の裸を前にして、なんで雪音ちゃんの裸を妄想してるの!?」
「ごめんなさい……」
 気付かないうちに物凄く失礼なことを口走っていた。
 今は目の前にある夕梨香の裸を凝視しないとな。
「じー……」
「何見てんのよこの変態!!」
「おうふっ」
 今度は前蹴りかよ!
 理不尽だ……ってあれ?
「……お前なんで隠してるんだ?」
 見せつけんばかりに裸を晒していた夕梨香は、脱ぎ捨てた服を慌てて着始めていた。
「裸を見られて隠さないのは露出狂だけよ!」
「それは真理だが、ついさっきまで堂々としてたじゃないか」
「え? そ、そういえば……何で!?」
 突然他人の目を気にし出す夕梨香。ここには俺と夕梨香と隣子しかいないのに。
 行動と言動が支離滅裂すぎる。
 夜は俺がふったから力の効力が無くなったと考えられるけど、夕梨香には何も言ってないしな……どういうことだろう。
 まさか俺の力にも効果時間があって、それが切れたとか? でもそれならもっと前に力を使った雪音は切れているはず……。
「お、おやすみなさいっ」
 逃げるように立ち去ろうとする夕梨香を――
 全力で阻止する!
「待った! もう少しここで話していっても良いだろ?」
「いや! 部屋に連れ込んで、何する気!?」
「ち、違うって」
 何なんだこの変わり様は。俺の力、もはや洗脳と言っても良いくらいじゃないの?
 だがこの後来るであろう雪音に対して冷静でいるためにも、俺の力をもっと詳しく知っておきたい。下手したらふるどころじゃなくなる可能性もある。
 想像してみるんだ……。
 頬を朱に染め息を荒げた雪音が徐に服を脱ぎ始め、半裸で四つん這いになりながら徐々に距離を詰め、俺の耳元でエロいワードを囁きつつ下半身に手を添え――
 ………………………………………………………………これはいかん。
「……夕梨香!」
「な、何?」
 真剣な俺の表情に面食らったのか、夕梨香も足を止めてくれた。
「ここに夜が置いていったUNOがあるんだけど」
「……、それで?」
「一勝負しようぜ!」
「……」
「……」
 さ、流石に無理があったか? UNOでもやりながら、夕梨香が元に戻った理由を探ろうという目論見だったんだけど……。
「望むところよ!」
「ノリノリ!?」