謎の文書 poor work 2-4 | 悪魔で個人的な物語

悪魔で個人的な物語

アニメやゲーム、ニュース等の悪魔で個人的な感想、雑記等

複数のサイレンが聞こえてきた頃、光明達はタクシーに乗っていた。
 一馬が盛大にすっ転んだ事以外では、皆目立った外傷も無かったのでさっさと立ち去ることにしたのだ。つい先程まであのビルの中に居た光明達は、変に疑われる可能性もある。
 何より――怖かった。
 仮に外ではなく、ビルの中で談笑していたらどうなっていた?
 ……考えただけでゾッとする。とにかくあの場には居たくない。それが皆の総意だった。
 恐怖から解放され、タクシーという一時の高級感を味わっていると、煉がしきりに料金メーターを確認している事に気付いた。一馬も煌も光明も、煉にタクシー代を払わせるつもりなど無い。ただ、煉が子供扱いされるのを極端に嫌いそうな事も光明には分かっていたので、一馬の家が近付いた辺りで早めに降りることにした。
「本当に良かったの? 払って貰っちゃって」
「気にすんな! こういう時は男が払うもんだし。なっ?」
「格好付けたいなら俺を巻き込むなよ……」
 光明は全員で普通に割り勘するべきだと主張したが、一馬が中途半端な男気を見せたお陰でとんだ出費である。友達同士の付き合いで、男が一方的に奢るのは違うだろう。そもそも恋人だろうと男が奢るという考え自体、光明には理解出来ないというのに。
 ――世の女性に忠告したい。男が奢りたいと思うのは、女が謙虚な場合だ。
 男が払うのは当たり前、なんて傲慢な女――どれだけ可愛かろうが願い下げである。
 とまぁその理屈で言うと、煌と煉相手ならタクシー代を払うのはやぶさかではないけど。だったら一人で払わせてほしかった。結果が男二人で割り勘って……。男を見せようとして財布を見たら、お金が足りなくて他を頼った――みたいな背景が簡単に想像出来るじゃないか。
 光明一人ならギリギリ全額払えたので、どうしても愚痴が出てしまうのだった。
 タクシーから降りて街道沿いに歩くこと数十分。脇道に入ると、見慣れた景色が目に飛び込んできた。ようやく一馬の家の近所まで辿り着いたのだ。
「ふぅ……やっぱ歩くと大変だったな。色々ありすぎて、精神的に疲れたのもあるけど。――今度会うのは学校、か?」
「そうだな。初詣って気分でもないし」
「えぇ~? むしろお守りが欲しいくらいなのになぁ」
「行きたいなら行けば良いだろ。……誰かとさ」
「お、俺と行くか!?」
「光君も来る?」
「俺は一人で、残りの冬休みを堪能させてもらう。一歩も外に出たくないんだ」
「じゃあ、私もやめておこうっと」
「――――」
 あれ……? 煌の奴、こんなにあからさまな態度取ってたっけ? それとも、煌の気持ちを知ったから違うものが見えるようになったのだろうか。一馬が今までもこんな扱いを受けていたのだとしたら――逆恨みされていてもおかしくないな。
「じゃあ、また。多分冬休み中に電話すると思う」
「ああ……俺は今すぐにでも問いただしたい気分だが我慢するぜ……」
「じゃあね、山河君」
「――さようなら」
 すぐにでも電話を掛けてきそうな一馬の勢いに、若干引いてしまった。
 でも――ちゃんと話さないとな。
 一馬と別れてからしばらく三人で歩いていると、とある疑問が浮かんだ。
 煌も同じ疑問を抱いていたようで、
「煉ちゃんって、何処の学校に通ってるの?」
 遠回しであるが、光明よりも先に質問した。
 煉が近所に住んでいるのなら、同じ小学校に通っていた可能性が高い。学年が違うから、顔を覚えていなくても不思議はないし、どこかでニアミスしていたかもしれない。
 でも、煉は一度見かけたら強く印象に残りそうだからなぁ……どうしても、この辺りに住んでいるというイメージが湧かない。
 にもかかわらず、煉はここまで付いてきているのだ。
「自由中等教育学校っていう、この近くの――」
 思わず、煌と光明は目を見合わせてしまった。
 一馬も含めた光明達三人は、『家が近い』『高校受験はしたくない』『特に高くもなく低くもない無難な偏差値』という三つの理由から、中高一貫の自由中等教育学校を受験した。
 つまり、煉とは同じ中学である。
「? どうしたの?」
「俺達も同じ由学(ゆうがく)だから。驚いてさ」
「えっ!? そ、そうなの」
 やはり煉にとっても寝耳に水だったようだ。
 質素な住宅街を進んでいると、煌の家が見えてきた。ここは丁度、光明の家と一馬の家の中間に位置するので、昔から待ち合わせと言えばいつも煌の家だった。駅に近いのは一馬の家なのだが、来た道を戻る無駄を差し引いても、一馬には得る物があるのだろう。
「そっかぁ。煉ちゃん、この辺りに住んでるんだ。だからここまで一緒だったのかぁ~。納得したよ」
「いいえ? 駅で言うと一つ隣よ」
「え? じゃあどうしてここまで一緒に――」
「先輩の家に泊まるからに決まってるわよ。ね?」
 ……さすがに引っかからないぞ。実際そんなことになっても、最終的に焦るのは煉本人だ。ここはノリノリな所を見せて、ギリギリまで追い詰めてやろう。生意気な後輩には、一度お灸を据えてやらねばなるまい。
 ここぞとばかりに、光明は攻勢に打って出た。
「ああ。勿論、風呂は一緒に入るんだよな?」
「――えっ!? え、えぇ。構わない、わ」
「ちなみに、寝る場所は俺の部屋のベッドだけど、問題ないよな?」
「――そ、そうね。……無いわ」
「当然シングルベッドだし、相当密着して寝ることになるけど――まぁいいか。どうせ、朝まで寝かさないしな」
「……っ…………」
 みるみる顔を上気させていく煉。ついには、震えながら下唇を噛んで俯いてしまった。
 この時光明の中では、何かの種が発芽しようとしていた。
 S。
 俺ってサディストなんだろうか、と自問自答する。もっと苛めたい衝動が沸々と……。
 最初からセクハラだったのは自覚していたが、一応恋人同士なのだ。この程度なら許されよう。しかし、光明は更にその先を行こうとしていた。
 衝動が――Sの衝動が抑えられない!
「しかしめでたいな。煉は新年と同時に大人の階段を――」
「光君!!」
 暴走する光明を止めたのは、煌だった。というか、存在を忘れていた。
 それくらいの情念が光明を支配していた。
「本気なの!? 本気で煉ちゃんを泊める気なの? 本当に、煉ちゃんを大人の女にしちゃうつもりなの!?」
 ――おい。追い打ちを掛けてどうするんだ。煉は瀕死の重傷だぞ。精神的に。
 このままでは煉の羞恥心が限界に達してしまうので、真面目な口調で弁解する。
「一緒に寝る云々は冗談に決まってるだろ……。でも電車は止まってるだろうし、ここからまた一駅分歩かせるのはさすがに可哀想だからさ。なら俺の家で一泊すれば良い。部屋は余りまくってるんだし」
「で、でもぉ~……。だったら――煉ちゃんは私の家に泊める!」
「……あのな。明日は元旦だぞ。普通の家は家族で過ごすのが当たり前。言い方は悪いけど、そこに部外者を混ぜるのは良くない。何より、煉本人が居づらい筈だ。違うか?」
「――え? そ、そうね。煌さんの気持ちは嬉しいけど」
「……そっか。なら光君、煉ちゃんの事お願いね。――あ、お母さんに会っていく? 光君に会いたがってたよ」
「いや、遠慮しておく。……またな」
「うんっ。またね~」
 何とか煌の母親に会うのを回避した光明だった。昔から煌の両親には、娘を嫁に貰ってやって、と会う度に言われていて、正直疲れる。面白家族なんだけど。
 煌には輝(かがやき)という妹が居るのだが、しまいには妹とセットならどうだい? とか真剣に言ってきたりする。普通父親は、娘を嫁にやるのなんて否定的だろうに……。
 光明が煌の家族について思いを馳せていると、煉から寄り道がしたいとのお願いをされた。
「何処に行きたいんだ? コンビニ?」
「薬局に寄らないと。……用意が、無いもの」
 あれだけ責め立てられてもまだ反抗するか。負けず嫌いここに極まれり。
 しかしSに目覚めてしまった光明に、この手のからかいはもはや通用しなかった。
「今日、危ないの?」
「えっ!? そ、そういう訳じゃないけどっ」
「じゃあ別に良いじゃん。着けなくても」
「~~~~~!!! 馬鹿っ」
 ずんずん先に進んでいく煉の後ろ姿を見て、光明は溜息混じりにこう呟いた。
「俺の家はそっちじゃないんだけどなぁ……」

 見えなくなるまで歩いて行ってしまった煉を、携帯で呼び戻しようやく帰宅。
 ひまわりの種と野菜各種をリップルちゃんに上げて一息吐く。頬袋に無理矢理餌を詰め込む姿を見て共に癒やされたのも束の間、煉はすぐに怒りを思い出したようだ。未だ機嫌を損ねたまま、コタツに入って動こうとしない。光明がいるのに離れないのは、テレビが原因だろう。かくいう光明も、目を離せずにいた。
 理由は一つ――『普通の番組編成』だからだ。
 今日体験した出来事は、本来なら解散総選挙ばりに全テレビ局をジャックしてもおかしくないはず。一馬が言っていた公式サイトにもアクセスしてみたのだが、掲示板ごと綺麗サッパリ無くなっていた。それどころか、ネット上に『リバース』の話題が上がっている事すら無い。 あんなにも逃げ惑う人々が居たのに……これはもう、国家レベルの情報規制だ。もしかしたらあの体験会は、十人の参加者にしか伝わっていない情報なのかもしれない。ここまでくると怪しすぎる。一馬め――もっとよく調べてから話してほしかった。
 ……あまり興味が無くて、全く調べていなかった自分が言えた義理ではないんだけどさ。
 これ以上テレビを見ていても、収穫は無さそうだ。
 そろそろこれからの事を相談しようと、光明は何事も無かったかのように話しかけた。
「煉、夕飯何が良い?」
「…………はぁ。何でも、良いわよ」
「じゃあ使う食材は、ニンニクとニラと山芋とウナギとスッポンと――」
「お、オムライス! オムライスにして!」
「了解~」
 段々煉の扱い方に慣れてきたからか、会話するのが楽しくなってきた光明だった。
 台所に向かい材料を確認する。――良し。鶏肉が無いのでチキンライスにはならないが、ソーセージで代用すれば問題は無い。サッとケチャップライスを作り、続けて卵をフライパンに引く。一度、本に載っていたやり方を試しかったのだ。そう――卵を乗せてから真ん中を包丁で切ると、中から半熟の卵がトロッとライスを包み込むアレ。実に食欲をそそられる。
 上手いことフライパンの片側にオムレツを作ることに成功し、後はライスに乗せるだけ。
 ――デロンと。情けなく、形が崩れてしまった。二人分なのでもう一回挑戦するも、やはり結果は同じだった。調理師免許すら無い素人が、そう簡単に出来る訳が無いのだ。
 見た目があまりよろしくないオムライス二人前を眺めていると、いつから見ていたのか煉が背後に立っていた。
「先輩、料理出来るのね」
「え? いや、これは俺の本当の実力じゃなくて」
「ふふ。十分美味しそうだけど?」
「そ、そうか? まぁいいや。食べよう」
 オムライスをコタツに運んで、煉の一口目を――固唾を呑んで見守る。
「……美味しい」
 ホッと安堵の息を吐く。煌の家族からおかずを分けて貰うことはあったが、自分で作った料理を誰かに食べさせたことは無かった。こんなに嬉しいものなんだな。
「私にも、料理教えて貰える? 今度」
「ああ。……あんまり自信ないけど」
 食事を済ませた後思う存分煉をからかってやるつもりだったのだが、思いの外寝るのは速かった。煉の入浴中は、着られそうな服とタオルを用意しただけで、覗こうなんて気は全く起きず、押し入れから布団を引っ張り出して敷くと、新年を起きて迎えること無く眠りについた。
 ただただ――疲れていたんだ。二人共。
 寝付きの悪い光明も、この時ばかりはベッドに入って五分と持たなかった。


 同時刻。某所にて。
 テレビでは、相も変わらず凄惨な光景が流れ続けている。
 一人でカップ麺を啜りつつ、興奮した様子でニュースを見ていた少女は、軽快な独り言を撒き散らした。
「うっわ、マジやば! 乙女の勘もろに的中じゃん。参加するって送っちゃってたけど行かなくて良かったぁ~。あ、でも死人無しなら行っても平気だったのかな。うーん、どっち? 分かんね。体験したかったのは確かだし、行った人にどんなだったか聞いてみよっかな。って探しようがねーか」
 改めて自分の勘の良さに心酔しながら、何度も流れる同じ映像を眺めていると、必死な形相で逃げている同年代の少年少女が目に付いた。
 別の角度から映した映像では、明らかにビルの方から逃げているのが分かる。
 少女は慌てて、一ヶ月程前に届いた封筒の『参加資格』を確認した。
『十二歳~十八歳でゲームが大好きな方』
「…………」
 一人やたらと体格の良い男も混ざっているが、見事危険を回避した少女の勘が言っていた。
 この四人は――体験会の参加者だと。
「あれれ? これ、もしかすっともしかすんじゃねーの?」


   第二章 後の祭り


『成る程な。まぁ、それで緋影が傷ついちゃ元も子もないし、俺は気にしないぜ』
「俺が二股掛けてもか?」
『二股ってーと悪いイメージしか湧かないけど……光明なら、彼女公認でそういうのもありなんじゃとさえ思う。緋影が納得してんならそれで良いさ』
「……俺が一馬の立場だったら、凶器を持って家に乗り込むくらいはするぞ」
『ははっ。それは光明が本当の意味で女を好きになったことが無いからだよ。なんつーか……俺はそういうレベルじゃ無いんだ、もう。緋影が幸せを感じるなら、相手が俺じゃなくても、どんな形でも構わないんだよ』
「分からないな。本当に好きなら、自分の手で幸せにしたいと思うのが当たり前だろ?」
『そうだな。けどそれって、自分のことしか考えてないただの我が儘だろ。我が儘を突き通して幸せにしてやれるなら良いけど、残念ながら現実はそう甘くない。本当に好きなら、相手の気持ちを尊重することと、引き際を見定めること。これが俺の導き出した答えだ』
 何故恋愛談義に発展しているのだろうか。ただ光明は、煌に対する態度を改める事と、一馬に協力するのをやめる事。この二項を伝えるだけのつもりだったのだが。
 意外に男同士の恋バナというのは、盛り上がるものである。
 今日は一月の四日。始業式が後四日というところまで迫っていた。
「まだ引き際じゃないと思う。多分」
『分かってるって。告白もせずに諦めるのは論外だ。俺が話したこと全部言い訳になっちまうしな。……そういや、光明のとこにも届いたか? 景品』
「ああ。携帯端末の玩具だろ」
 仮想現実『リバース』の中でイルが言っていた景品――携帯端末のレプリカは、昨日の朝に届いた。ビルがあんな事になっても無事に届いたのは、恐らく前もって参加者全員に日付指定で送っていたのだろう。結構精密に出来ていたため光明は童心に返って喜んだが、すぐにただの玩具と気付きコタツの上に放置したままである。
『一緒に入ってた紙に英語で何か書いてあったけど、あれの意味分かるか?』
「be necessary to REBIRTH ……『リバース』に無くてはならないもの。まんまだな」
『成る程。じゃあ――この、RePTってのは?』
「多分、この携帯端末の名前じゃないか? 『リバース』のポータブルターミナルって感じ。『レプト』ってところか」
 気になって調べただけで、光明の英語の成績は酷いものだ。一番嫌いな教科と言っても過言では無いだろう。それだけ、期待していた証拠でもある。
『またやりてーなぁ……。面白かったよなぁ……』
「どっちも同意だけど、無理だろもう。会社があんな事になった上、あの周辺やたらと物騒になっちゃったし」
『連続殺人――か』
 重々しく一馬が呟いたそれは、新年を迎えた直後に起こった。
 朝起きてテレビをつけたら、中継付きのニュースが流れていたのだ。
 あの高層ビル周辺で、人が殺されたという。被害者はまるで冷凍保存されていたかのように冷たく、死因は全身の凍傷だったそうだ。
 元旦翌日は、立て続けに二件の殺人事件が起きた。どちらの被害者も、ウォレットチェーンに繋がれた財布などから、身元が既に判明している。一人は感電死、もう一人は焼死。殺人の方法から察するに、複数犯の可能性が高いと言っていた。
 そして今日。ついさっきも新たな殺人事件が起きたばかりで、今もトップニュースとしてテレビに流れている。今度の被害者は今までの奇抜な犯行とは違い、心臓を一突き。凶器は日本刀のような刃物らしいが、無論見つかっていない。
 全ての事件に共通することは二つ。
 犯人は非常に残忍。そして――一切証拠を残していない。
 百合野根駅周辺がどうなったのかは気になっていたのだが、こんな事件が起きているのでは無闇矢鱈と近づけない。実際、あそこは既にゴーストタウンと化してるようだし。
「先輩。電話長い」
 ばっ――!!
『ん? 今、女の子の声がしなかったか?』
「あ、ああ。テレビだな。そろそろ切るぞ。またなっ」
『え? お、おい待っ』
 受話器を乱暴に置き、急に声を発した人物を睨み付ける。
 彼女は我関せずと言った様子で、光明の作ったペペロンチーノをクルクルとフォークに巻いている。視線の先にあるのは、光明ではなくテレビだ。
「煉……あんまりふざけてるなら帰ってもらうぞ」
「先輩が悪いのよ。か、可愛い彼女を放って置いて長電話なんて」
「自分で言って恥ずかしいなら言わなければいいだろ……」
 大晦日に一泊。それだけの予定だったのだが、煉は未だ光明宅に居座っていた。
 煉も一人暮らしと言っていたから一見問題ないように見えるが、常に女の子が身近に居る生活というのは色々と大変だった。悔しいが自分で主張していた通り、煉は可愛い。時折見せる無防備な姿を見て、やきもきしっ放しである。
 そんな光明を見るのが楽しいのか、煉の挑発は日を増すごとにエスカレートしていった。
 それでいて、いざこっちが本気になると泣きそうになるのだ。
「あっ。今動いた」
「……何が?」
「お腹の赤ちゃん」
「どういう奇跡が起きれば三日で赤ちゃんが動くんだ!?」
「先輩が薬局に寄らなかったからよ」
「確かにな! でもこの三日間、俺はお前に指一本触れた覚えは無い!!」
「せ、先輩が寝てる間に、とか?」
「だから、恥ずかしいなら無理に挑発するのはやめろって!」
 少なくとも、学校が始まるまでは居るつもりらしい。もうそこは開き直って許した。
 光明には、この四日間で得た教訓がある。
 煉は立ち振る舞いや物腰は大人顔負けだが、子供なのだ。どんなセクハラを受けても、必ず仕返しをしてくる。恥ずかしいことを言っていた、と後で自覚して真っ赤になろうとも。
 なので煉の扱い方は、S全開の攻めから突っ込みへとシフトしていた。
「――あっ。ニュース速報」
「まさか、また殺人か?」
「え……? 犯人、自首――」
 すぐさま、入ってきたばかりのニュースをアナウンサーが読み上げる。
『元旦より起きていた連続殺人事件の容疑者が自首してきた模様です。身元は分かっていませんが、容疑者は少年です! ――え? これを……。えー、ただいま入ってきた情報によりますと、犯行に使用した凶器は消した、と供述しているらしく、また意味不明な言動も見られることから、何らかの薬物を服薬している可能性も――』
「あれだけの事をして、証拠も何一つ見つかっていないのに自首……?」
「行動に一貫性が無いわね。――いえ、もしかしたらあるのかも」
「わざと捕まって、周りに居る人間を殺すって事か? さすがに子供じゃ無理だろう。拳銃持った警官が居るんだし」
「それは無理でも。凶器は消したって言葉と意味不明な言動――何か、引っかからない?」
 ハッとして、コタツの上に置いてある『レプト』を見る。
 ――いや。確かに、これが現実でも使えたら犯行も可能だろうけど。
 さすがに現実離れしすぎてる。
「仮想現実『リバース』……やたらと現実そっくりに作られていたわよね。参加者以外に知らされていなかった体験会、全く報道されないビルの爆破、謎のゲーム制作会社フュージョンスフィア――先輩は、何とも思わないの?」
 淡々と事実だけを並べる煉は、至って真面目だった。
「この『レプト』が届いたのって昨日だし。殺人は元旦から起きてる」
「予め日付指定で送っていたのだとしたら、特定の人にだけ早く届くようにも出来るわ」
 光明の指摘も軽々と論破されてしまった。
 まともに話し合うのは気が引けたのだが、ある事実が光明を突き動かした。
 ――そうだ。殺人事件は、限定されたエリアでしか起きていないじゃないか。
「百合野根駅周辺に行けば『レプト』が使えるかもしれない……?」
「絶対とは言い切れないけど。――行くの?」
「ありえない絵空事ならそれで良い。でも、行くだけでこれが使えるかは確認が取れるだろ」
「……そうね。分かった。私も行くわ」
「いや、俺一人で良いよ」
「そんな主人公みたいな台詞はいらないわ。萎えるから」
 きっぱりと拒否されてしまった。
 けど今あの場所に居るのは野次馬やテレビ局の関係者、後は警察くらいのはず。そんな場所に子供が居たら目立ってしょうがない。もしかしたら、殺人集団と全面戦争になる恐れだってある。『レプト』を使って人を殺してるなら、彼らにとっての脅威は警察では無く他の参加者なんだから。
「いや、真剣にさ。普通に危ないんだぞ」
「――そうね。人数は多い方が良いわ」
 不敵な笑みを浮かべた煉は、携帯電話を手にした。