誰からも愛され美しく魅力的で、

 

縁談も引く手あまただったはずの、プリンセスが。

 

すべてを奪い尽くされたときに、

 

かろうじて精神を支えていたのが

 

「いつかカトリック回帰をしてやる」

 

「女王になって私が奪われた

 

すべてのものを取り返す」という

 

復讐の念だったのかもしれません。

 

女王になるという「目的」のためには、

 

憎い異母妹とでも表面上は普通に接していられたし、

 

憎いブーリン家に繋がる一族でも、

 

(かつて「焼き林檎のように潰して殺してやる」とまで

 

恫喝された)

 

「赦して」「重用」することもできたのではないでしょうか。

 

そして、ヘンリー8世陛下の王妃様方のうち、

 

その容姿のために離縁されても、

 

「王の妹」という立場で贅沢三昧で、

 

幸せに生涯を終えられた四番目の

 

王妃様アン・オブ・クレーヴス様の

 

ご埋葬に関しましても

 

(アン様もエリザベス様同様に

 

プロテスタントでいらっしゃいましたので、

 

メアリー様のミサには欠席されていらしたようですが、

 

快活なお人柄でいらしたために、メアリー様とも

 

それなりにお付き合いがあったのだと思われます)

 

メアリー様はご配慮なさっておいででございますし、

 

グレイ家の方々に対しても寛容であられましたが、

 

それでもカトリック回帰を阻むプロテスタントの

 

方々に対する弾圧(なかには、

 

かつてお母君のキャサリン様を追い詰めた

 

方々もいらっしゃいました)

 

を、極めて苛烈な弾圧を行われた

 

フェリペ様が「さすがにやりすぎではないか」と

 

いわれるぐらいに

 

なさいましたのは、まことに悲しいことでございました。

 

メアリー様にとりまして、イングランドではなく、

 

スペインこそ「我が祖国」であられたのかもしれません。

 

メアリー様にはそれしか、カトリックの復帰と女王への即位と、

 

復讐の一念以外には、

 

目標がおありではなく、

 

それが果たされた以上、あとは羅刹へと

 

転がり込んでいかれたのだと思います。

 

誰もメアリー様を、亡くなられたキャサリン様や、

 

母同様に愛してくださっていた養育係の

 

マーガレット・ポール様以外には

 

愛してくださらなかった。

 

憎悪を溶かすような

 

灼熱の、そして、永劫の愛で

 

包み込んでくれる、

 

「大丈夫だよ」と

 

抱き締めてくれるような存在がいれば、

 

メアリー様もあるいは、

 

エリザベス様同様、善き女王陛下に

 

なられていたかもしれないのに。

 

甘いといわれそうですが。

 

すべてを失ったとしても、

 

私は愛だけは失わずにいたいと願います。