10年ほど前だろうか。
西麻布にある「バイキン」というバーによく顔を出していた。
今も活躍する大物有名歌手のマネジャーをしていたOさんという人がマスターの店で、気に入らない客が来たら倍の料金を請求するというのが店名の由来らしい。
命名者は作家の伊集院静氏で、氏自身もよく店に顔を出していた。
その店で伊集院さんが松井秀樹選手のことを熱く語っていたことを今朝の日経のコラム「春秋」を読んでいて思い出した。
記事がその松井選手のことだったからだ。
松井秀喜選手がレイズとマイナー契約を交わした。
米国での10年目、3年前のワールドシリーズ最優秀選手にしてマイナーリーグからの再出発である。
日本での輝かしい戦績とヤンキースでの実績がある選手の決断を人はどうとらえるだろうか。
日本の球界に復帰することもできただろう。
事実、多くの日本人選手が米国大リーグでの熱い壁に跳ね返され日本に戻ってきている。
仮に松井選手が古巣ジャイアンツや宿敵阪神のユニフォームを着たら、それはそれで盛り上がることだろう。
しかし、37歳の松井選手の決断は明確だった。
米国に来た以上、選手生命を終えるとしたらそれは米国で。
現役を続けるならば、たとえそれがマイナー契約だとしても米国球界で、という松井選手の決断に拍手を贈りたい。
彼は記者会見でこうも語った。
「チャンスをもらって感謝している。マイナー契約が僕自身の現状」
何と謙虚な人なのだろう。
しかし、この間松井選手は一人黙々とバットを振り続けていたに違いない。
マイナーからの出発だとしてもメジャーに上がる自信もあるのだろう。
久々に、ぶれない、男の決断を見たような気がする。
それは、あのビールのキャッチコピーのようだった。
「男は黙ってサッポロビール」