田原聡一郎 が果たした役割
21年続いたテレビ朝日系のニュース番組「サンデープロジェクト」が終了しました。
毎週日曜の午前中、ほぼ欠かさずこの番組を見ていた人が多いということは、キャスター(本人はこの言葉を望みませんが)である田原聡一郎の力量によるところが多いというのは、衆目の一致するところでしょう。
出演した政治家を挑発し、本音を引き出そうとする半ば強引とも言える手法に共感を覚えた人もあれば嫌悪感を抱いた人もいると思います。
私はどちらかと言えば、前者で共感を感じたほうです。
「言いたいこと言う」あるいは「言いたいことを言い合える」環境を作るには、進行役の役割がとても大きいと思います。
テレビの生番組で21年間、緊張した場面を作り続けてきただけでも田原聡一郎はスゴイと思っています。
人を意図的に挑発する手法を私は組織の運営に利用したことがあります。
「上司と部下が遠慮なくモノが言い合える環境」つくりが組織の機動力を高めるのに必用な場合、故意にナンバー2の部長であったり、副部長を挑発して議論を活発化させるのです。
時には喧嘩のように見せることもありました。
二人のやりとりをまじかに見た部下が一瞬のうちに緊張していくのが分りました。
でも田原聡一郎は最後には落としどころを用意していましたから、そのことを見抜いた視聴者にはそれがあざとく見えてしまうのかもしれません。
この番組に一番多く出演したのは104回という記録を持つ菅直人氏でした。
野党暮らしが長かった菅氏がこの番組を上手く活用していたことだけは間違いありません。
政治家にとっては諸刃の剣とも言えるこの番組を野党は積極的に利用したが、長年与党だった自民党の政治家の大半がこの番組への出演を躊躇したという。
それは田原氏の舌鋒鋭い、容赦ない、時には強引とも言える番組進行に恐れを覚えたからです。
だから田原聡一郎は自分はこの番組のキャスターではなく、番組そのものを演出するディレクターだと言いたかったのでしょう。
近年、この番組に出演する政治家、特に若手政治家はこの番組を利用して、党則に縛られない自由な発言を繰り広げるようになりました。
個人に極めて近い立場での発言です、
やがてその発言はブログやツイッターを通じて、また政治家個人の意見として、瞬時の内に国民に伝わるようになりました。
いわゆるおしゃべり政治家が数多く出現するようになったのです。
マスコミを利用し、他者の意見を批判しながら、実は自分の言いたいことだけを喋り、それをブログやツイッターで拡散していく政治家。
その「つぶやき」が本当に自身の本音なのだろうか?
実は自分に都合の良いように意見を修正していないだろうか?
これが分らないのです。
少なくとも「生」で見ていれば、感情の起伏や発言の微妙なズレからそれを読み取ることができます。
国を憂う政治家は本来寡黙のような気がします。
だから、喋りすぎている政治家を見ていると、とても幼く見えてしまいます。
サンデープロジェクトのディレクターだった田原聡一郎から私が学んだ最大のことは、「常識を疑え」でした。
「常識を簡単に信じてはいけない。必ず自分の目や耳で確かめる」
このジャーナリスティックな姿勢が「サンデープロジェクト」に緊張感を与えていたと思います。
今の世の中になくてはならない番組が終了して残念です。
噂によれば高額なギャラを支払う田原氏よりも局アナを使うほうが制作費が安くあがるという上層部の判断があったと聞いています。
確かに次週からは局アナが番組進行を司るキャスターに就任します。