公正取引委員会がJASRACに排除命令 | ソフィアの森の「人生は、エンタテインメントだ!」

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音楽が好きで、映画が好きで始めたブログですが、広告会社退職後「ビジネスの教訓は、すべて音楽業界に学んだ」を掲載しました。

いったいどこが問題なのか?


「放送局が番組内で使う楽曲使用料をめぐり、著作権管理団体の日本音楽著作権協会(JASRAC)が現在、放送局との契約で採用する楽曲使用料の徴収方法が、他社の新規参入を制限しているとして、公正取引委員会は27日、JASRACの独占禁止法違反を認め、排除措置命令を出した。JASRACはこれを不服として争う方針(28日付・朝日新聞朝刊)」


これって、いったいどこが問題なのか?をかつて音楽業界にいた私の個人的見解をまじえてお話してみたいと思います。ただし、私は著作権の専門家ではないので、細かい点については間違いがあるかもしれないので詳しい方がいれば、遠慮なくご指摘ください。


まず、包括契約について。


JASRACが著作権を管理している全ての曲を放送事業者が自由に使うため、事前に一定額をJASRACに支払う契約のことです。つまり一定額をJASRACに支払えば、放送事業者にとってはJASRACの曲がかけ放題ということになります。


一定額とは放送事業収入の1.5%という取り決めになっています。


しかし、包括契約だから誰の曲が何回放送中に使用されたかという正確なデータは存在していません。


いわばどんぶり勘定です。


私などは包括契約云々より「正確なデータがない」ほうが問題のような気がするのですが、この点については後で述べます。


では、JASRACが放送事業者と包括契約を結ぶと何故、新規参入を制限することになるのか?


JASRACの前身は1939年に設立された大日本音楽著作権協会です。国内の作曲家と演奏家の権利を保護するために当時の内務省が中心になり、官民一体となって設立されたのです。


いわば国策として著作権業務への参入を許可制とし、以来、日本国内ではJASRACが独占的に著作権業務を遂行してきました。


国策として設立されたということは法が定めた独占事業者ということになります。


それが昨今の規制緩和です。


2001年にJASRAC以外の業者による楽曲管理が可能になったのです。


この結果、現在JASRAC以外で著作権管理業務を行っているのは2社。「イーライセンス」「ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)」です。


JASRACが1978年から放送事業社と包括契約を結んでいるため、この2社の管理楽曲を放送事業者が使う場合は、別途使用料を追加で払わなければならないため、放送事業者はこの2社が管理している楽曲を(面倒くさいし、新たな使用料が発生する)使用しないという状況になります。


正確に言うと、JRCは放送分野における著作権管理業務を行っていないため、「他社の新規参入を制限している」の他社とはイーライセンスのことを指します。


実際、過去にイーライセンスが委託され管理している楽曲のため、放送局が意図的にこの曲を使わずに問題化したことがありました。


こういうことから公正取引委員会は、これを競争阻害の事例と認定し、今回の排除命令に繋がったと言われています。


以上、こここまでが大筋での今回の流れです。


私が感じた第一の疑問。


今回公正取引委員会が問題にしている「包括契約」が放送事業者のみに限定されていることです


JASRACが包括契約を結んでいるのは放送事業者だけでなく、店舗のBGM、カラオケで商売をしている店、ストリーミング配信など多岐にわたっているのに、何故、今回は放送事業者だけに限定したのか?という疑問です。これに対する公正取引委員会からの正式な回答はありません。


放送事業者との包括契約は、むしろ放送局の利便性を考え、放送局側から申し出て成立したものだと聞いています。自由に楽曲を使えることで、音楽文化の多様性を担保し、エンドユーザーの要望にも応えている、と私は理解していました。


しかし、包括契約では誰の曲が何回使用されたかを特定できないため、作曲家や作詞家への分配に公平さを欠くという指摘もあります。


現在のシステムはこうなっています。


著作権印税は13週ごとに集計されたものが音楽出版社を通じて著作権者に支払われます。


しかし、放送局が13週の間にオンエアされた楽曲をすべて調査することは不可能とは言わないまでも、相当な労力とコストがかかります。


そこでJASRACが指定した1週間に限り、各放送局がオンエアした全ての楽曲についてサンプリング調査を行い、JASRACに報告するという仕組みになっています。


この報告を基にJASRACは作家への分配比率を決めるのです。


つまり、残りの12週の実績は無視されてしまうことになります。


ここには問題がありますよね。


だからJASRACも民放連との間で2012年までには全曲報告する体制を整えるという合意を得ており、システムを含め実現に向け努力していますし、多くのキー局はそれに従っています。


NHKでは既に1年ほど前から使用した楽曲、全曲を報告させる体制になっています。


私がレコード会社に在籍していたころ、巷では第一次カラオケブームの真っ最中。楽曲使用料を支払わずに営業しているカラオケバーやスナックなどの違法店が続々と増え、大問題になりましたが、JASRACの社員は、それこそ北は北海道から南は沖縄まで全国のバーやスナックに出向き行政指導を行い、各店と包括契約を結んだのです。


友人がJASRACに勤めていたこともあり、この当時の彼らの努力は、それはそれで大変なものでした。


現在JASRACには500人の社員がいますが、こういう不法摘発を行う地道な仕事をしている人も大勢いるのです。


新興のイーライセンスでは、とてもそこまではできません。


このように考えると、今回の公正取引委員会によるJASRACに対する排除命令は、あまりに唐突という感じが否めないのです。


しかし公平、競争という資本主義の原理原則は崩してはならないと思います。


JRCがネット上におけるストリーミング配信において、ユーチューブの親会社であるグーグルと包括契約を結んだように、今後インターネット上でのCGM的プロモーションが盛んになればなるほど、包括契約を含む新たな著作権管理システムの構築が望まれてきます。


あるいは、その用途において信託する管理団体を選ぶ。例えば放送事業についてはJASRACでストリーミング配信についてはJRCとか・・・・・・・・・・・・まあ、計算は大変でしょうが。


さらに今後DRMフリーの楽曲が増え、デジタルでのコピーが自由になれば、尚更ではないでしょうか。


初音ミクがニコニコ動画で増殖したときを思い出してください。


個人が自由な発想でミクの楽曲に手を加えて発表する・・・・誰もが創り、誰もが発表できるCGMの時代にはJASRAC型の信託ビジネスは対価をお金で回収する中央集権型ビジネスと捉えられ、ばらばらに住む個人がお金儲けを離れて個人に届けるP2P型ではJASRACモデルは通用しないと言えます。


さあ、今回の公正取引委員会によるJASRACへの排除命令はどういう結末を迎えるのか気になるところですが、世の中はJASRACなのかイーライセンスなのかという器の中の争いより更に先の次元に進んでしまっているように思います。


ちなみにJASRACの2007年度の使用料徴収額は1157億円。そこから手数料を差し引いた1120億円が音楽出版社を通じて作家に分配されました。


結構大きなビジネスに成長していますね。