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デンマークに移民したスウェーデン人親子の物語。
その年のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しただけでなく、アカデミー賞外国語映画賞も受賞したビレ・アウグスト監督の作品です。
いやぁ、素晴らしい作品です。幾度となく涙腺が刺激されてしまいました。
デンマーク、ボーンホルム島。一隻の船が港に着き、スウェーデンからやって来た大勢の移民たちが降ります。
その場で始まる仕事の交渉。しかし、1人の初老の男だけは仕事に就くことができませんでした。
その男ラッセ・カールソンには、まだ幼い息子ペレがいました。妻ベーンタを亡くし、新たな土地で一からやり直そうとする矢先でした。
そこへ、遅れてやって来る1人の雇い主。彼は「石の農園」と呼ばれる大農園の管理人でした。ラッセは1年100クローネで雇われることになります。
100年前のストーリーなので参考にならないかもしれませんが、現在、1クローネは約20円。1年で2,000円しか給料がもらえないとは・・・。
さらに、石の農園での暮らしには、貧困と差別が待ち受けていました・・・。
もう、初めのシーンから泣きそうになってしまいました。ラッセが大口を叩くんですよねぇ。
「最初の働き口には飛びつかんぞ。」
何度も働き口を断られても虚勢を張る姿に、これから待っている過酷な暮らしを暗示せずにはいられませんでした。
それも、以前に同じくパルム・ドールを受賞したエルマンノ・オルミ監督の「木靴の樹」を観ていたからなのかもしれません。舞台設定としては、ほぼ同じですね。
「石の農園」には既に多くの移民たちが働いています。そこで、ラッセとペレは牛小屋を寝床として牛の番を任されます。牛小屋で暮らすなんてさぞかし辛い毎日でしたでしょうね。
それでも逞しく生きる少年ペレ。同い年くらいの少年ルズからデンマークの言葉と牛の扱いを教えてもらいながら、生活に慣れようと必死です。
しかし、管理人の助手がスウェーデン人という理由だけでペレを苛め始めます。
スウェーデンとデンマーク、それにノルウェーもでしょうか。ベント・ハーメル監督の「キッチン・ストーリー」で、スウェーデンとノルウェーの人種差別を取り上げていたことを思い出しました。あちらは、コミカルな雰囲気でしたけどね。
ペレはスウェーデン人であることだけでなく、貧しい暮らし、さらにラッセが付き合うようになるオルセン夫人との関係によって、学校でもいじめにあい続けます。特に、学校の教師も率先して差別する態度に腹が立ちます。いったい何を子供たちに教えているのか・・・。
しかし、ペレは負けません。強い子ですねぇ。でも、1度だけペレは負けてしまいます。ペレより貧しく、学校の授業にもついていけない少年・・・親友であるはずのルズを1枚の硬貨と交換で苛めてしまうのです。・・・つらく悲しいシーンでしたね。
農園ではペレが慕うエリックがいます。彼はことあるごとに管理人と衝突します。彼は言います。
「いつか、アメリカへ行く。」
「世界を征服してやる。」
もちろん、世界征服なんてできるわけもなく、「自由になる」ことを比喩しているだけなのでしょうが、それでも、ペレにはエリックが頼もしく見えたのでしょうね。いじめられ、貧しい暮らしが続く毎日にペレも次第に自由になりたいことを意識し始めますが・・・。
他にも、
「石の農園」の主人コングストルップと夫人、そして夫人の姪であるシーネの関係。
移民の女性アンナと裕福な男ニルスの悲劇。
など、さまざまなエピソードがペレの目の前で通り過ぎ、ペレを逞しく成長させます。
ペレ役のペレ・ヴェネゴーが夢を抱き続ける少年を、ラッセ役のマックス・フォン・シドーがペレを想う父の姿や老いを感じる孤独と悲しみを熱演しています。
ラスト。
雪原の上にペレとラッセが向かい合います。
もう親子と言うより、2人の男と言ったほうが良いのかもしれませんね。ペレは身体はまだ成長期ですが、心は逞しく育っていたのでしょうね。
普通なら抱き合うはずのシーンなのに・・・2人の握手が2人の強く固い決意の表れのようでした。
悲しい物語でしたが、ペレやルズのような貧しくても夢を抱き続ける少年たちに、ひとすじの光を照らしている良作です。
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Title:
PELLE EROBREREN
Country:
Denmark/Sweden (1987)
Cast:
(Pelle)PELLE HVENEGAARD
(Lassefar)MAX von SYDOW
(Forvalter / Foreman)ERIK PAASKE
(Erik)BJÖRN GRANATH
(Fru Kongstrup / Mrs. Kongstrup)ASTRID VILLAUME
(Kongstrup)AXEL STRØBYE
(Rud)TROELS ASMUSSEN
(Anna)KRISTINA TÖRNQVIST
(Madam Olsen / Mrs. Olsen)KAREN WEGENER
(Jomfru Sine / Miss Sine)SOFIE GRÅBØL
(Niels Køller)LARS SIMONSEN
(Karna)ANNA LISE HIRSCH BJERRUM
Director:
BILLE AUGUST
Awards:
Academy Awards, USA 1989
(Oscar(Best Foreign Language Film))
Cannes Film Festival 1988
(Golden Palm)BILLE AUGUST
Golden Globes, USA 1989
(Golden Globe(Best Foreign Language Film))
