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看守の男と死刑囚の妻の出会いを描いた作品。
甘いラブ・ストーリーかと思いきや、結構重い作品でした。
行きつけのレストランでいつもの「チョコレート・アイスクリーム」を注文しているハンク・グロトウスキは、州刑務所の看守として働いていました。ハンクの家は年老いた父バックと息子ソニーの3人暮らし。父の姿を見て育ったハンクは、同じ看守となり、そして息子ソニーも看守として働き始めたばかりでした。
厳格な父バックは人種差別主義者でもあり、その教えを受けてきたハンクは家に近づく黒人少年たちに向かって容赦無くライフルを発砲して威嚇します。それを見たソニーは少年たちを庇います。
父ハンクと息子ソニーには心の溝がありました。
そして、州刑務所。死刑囚ローレンス・マスグローヴの死刑を執行することになったハンクとソニーでしたが、ソニーは途中で気持ち悪くなり務めを放棄してしまいます。
激怒するハンク。その感情は帰宅しても変わりませんでした。しかし、ソニーも溜まりに溜まった感情を爆発させてしまいます。
そして・・・。
もうこれは完全にハンクの父バックが元凶でしょうね。理不尽な人種差別だけでなく男尊女卑の発言も多々あり・・・。彼は人を信じるということができない人物だったのでしょうね。息子や孫に自分の思想を押し付けて自分の正しさを証明したかっただけなのかもしれません。
そんな父でも愛していたハンクだから今まで父と同居していたのでしょう。ハンクは元々、根は優しい人物だったのではと思います。それを作中では「チョコレート・アイスクリーム」で表現していたのではないでしょうか。
そんなハンクを愛するソニーは至極当然だったのかもしれませんね。どんなに悪態をつかれようとも父と同じ職場で働くなんて尊敬していなければできないことだと思います。
しかし、ソニーの想いに気付くのが遅すぎたハンク・・・。
一方、死刑囚ローレンス・マスグローヴの刑の執行の数日前。ローレンスの妻レティシアと息子タイレルが刑務所へ最期の面会に来ていました。しかし、なぜかレティシアは冷めた表情でローレンスを見つめています。
車はもうボロボロでオーバーヒートしそう。
家も家賃を払えず追い出されそう。
11年も面会に来て疲れてしまった。
それがレティシアのローレンスへの最期の言葉でした。最期の別れでも、ローレンスがレティシアに手を差し伸べようとするも、それを拒否してしまうレティシア。
そして、死刑の執行日。自宅でタイレルとテレビを観ているレティシアは、肥満気味のタイレルが隠れてチョコバーを食べていたことを知り暴力を振るいます。
ここまでは、まったく共感するところがないレティシアでしたが、後にすべては愛するが故の言動だということが彼女の表情から伝わってきます。
さらに、レティシアには不幸が待ち受けていました。ある雨の日。帰宅途中でタイレルが車に轢かれてしまうのです。
雨の中、助けてと泣き叫ぶレティシア。
そこへ、1台の車が停まります。車に乗っていたのはハンクでした。
と、ここまでがハンクとレティシアが出会うまで長い導入部です。「チョコレート」という邦題と黒人女性であるレティシアという設定から人種差別が大きなテーマになっていくのかなぁと感じ始めたのがこの辺りですね。
また、人種差別主義者の家庭で生まれ育ったハンクがレティシアと出会うことで、どのように変わっていくのかも興味を持ながら観続けました。
そして、観終わった後、この作品は人種差別よりも大きなテーマがあったのではと気付かされます。
それは、裏切りや嘘をすべて赦し信じる心を持ち続けることができるのか。そして、そこに大きな愛が生まれるのかということでした。
ソニーは父からの悪態から耐えながらも父を愛していました。
しかし、とうとう耐えることができませんでした。
ハンクはソニーから期待を裏切られてばかりで信じてあげることができませんでした。
そして、レティシアは・・・。
ローレンスへの愛を隠しながら冷めた対応をしていたのは、旅立つローレンスに未練を与えないための彼女なりの愛し方だったのではないでしょうか。タイレルに対してもアメリカの黒人男性として立派に育って欲しいという愛情の裏返しからでした。
自分の愛する気持ちを隠して生きてきたレティシアにとって、心を開いて愛することができたのがハンクだったのです。
レティシア役にはハリー・ベリー。逞しく生きながらも実は繊細なレティシアをまさに体当たりで演じています。
ハンク役にはビリー・ボブ・ソーントン。前半の荒々しさと後半の抑えた演技の強弱が印象に残ります。
また、前半のキーパーソンとなるソニー役にはヒース・レジャー。繊細な青年を好演しています。
終盤。バックからの人種差別を受けてもハンクからの愛を信じるレティシアでしたが、ハンクとローランドとの関係をついに知ってしまいます。
騙された。
裏切られた。
そして、ラスト。このような終わり方ですか・・・これは、どのようにも取れるラストですね。
放心状態のレティシア。
私はそれでもレティシアはハンクと共に生きていくというラストを願いたいですね。
翌朝、ハンクに連れられてあの店の看板を見せられたら、もう一度信じてみようと思うはずだから・・・。
甘くないビター味の「チョコレート」でした。
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Title:
MONSTER'S BALL
Country:
USA/Canada (2001)
Cast:
(Hank Grotowski)BILLY BOB THORNTON
(Leticia Musgrove)HALLE BERRY
(Sonny Grotowski)HEATH LEDGER
(Buck Grotowski)PETER BOYLE
(Tyrell Musgrove)CORONJI CALHOUN
(Lawrence Musgrove)SEAN 'P. DIDDY' COMBS
(Lucille)TAYLOR SIMPSON
(Vera)AMBER RULES
Director:
MARC FORSTER
Awards:
Academy Awards, USA 2002
(Oscar(Best Actress in a Leading Role))HALLE BERRY
Berlin International Film Festival 2002
(Silver Berlin Bear(Best Actress))HALLE BERRY
