監督:ニール・ジョーダン
キャスト:
ジョディ・フォスター、テレンス・ハワード
ナヴィーン・アンドリュース、メアリー・スティーンバージェン、ニッキー・カット、ジェーン・アダムス
製作:2007年、アメリカ/オーストラリア
6月11日のニューヨーク。FMラジオ局の人気DJエリカ・ベインが担当する番組「ストリート・ウォーク」。ニューヨークの街を歩き、聞こえる音を詩にして伝えている。
プライベートのエリカは、婚約者デイビッドと一緒に暮らし、結婚式の準備をする日々。デイビッドは結婚を待ちきれず、今日にでも籍を入れようとエリカにプロポーズする。
友人のニコールが妬けるほど幸せな2人。
その日の夜。愛犬カーティスを連れ公園へ散歩に行く2人。デイビッドは真剣にプロポーズし、エリカとの愛を確かめ合う。
ふと気付くとカーティスがいない。薄暗いトンネルの向こう側にカーティスを見つけ、トンネルを歩く2人。そこには、カーティスを捕らえていた3人の若者がいた。
暴漢に襲われた2人・・・。エリカは意識不明の重態。そして、デイビッドは帰らぬ人に・・・。
そして、エリカは選択する。善か悪かを・・・。
Comment:
幸せな生活から一変した女性の苦悩と復讐を描いたサスペンス。
銃社会であることの恐怖。そして、人の善悪を考えさせられるメッセージ性の強い作品でした。
3週間の昏睡状態から奇跡的に目覚めたエリカ。しかし、そばにデイビッドの姿はありませんでした。既に葬儀も終わっていることをデイビッドの母親から聞かされたエリカ。
その悲しみはエリカに影を落とします。
退院後、自宅に帰るエリカ。デイビッドとの思い出が甦ります。しかし、暴漢に襲われた記憶も甦り、エリカは外出することにも恐怖を覚えるようになってしまいます。
安全だと思っていた街・・・。自分だけは危険な目に遭わないという根拠の無い理由・・・。
エリカの不幸と苦悩は、私たちにも起こり得る現実であることを伝えています。
でも、危険な目に遭わないようにするにはどうしたらよいのか・・・。難しいですよね。外に出ないなんてことは答えになりませんし・・・。被害者側からでは、避けることができないことなのでしょうか。
身の危険を感じたエリカは、すぐに手に入れられるという闇の売人から9ミリ口径の銃を購入します。その結果、エリカは1つの答えを導き出しました。
危険人物を排除すること・・・。
エリカは、危険人物たちを「処刑」する「処刑人」へと変貌していきます。
「善」とも「悪」とも取れるその行為は、ニューヨークに住む人たちの話題にもなり、賛否両論が飛び交います。
エリカの心情は痛いほど伝わってくるし、エリカの行為によって、少なからず街が安全になることも判るのですが、やはり、街の安全を守るのは警察の仕事、使命であり、権利が与えられていないエリカの使命ではないと思いました。
そのことはエリカも十分に理解していたと思います。しかし、復讐心がそれを上回り、やがては「悪」の心も芽生え始めてしまいます。
人を「処刑」することが、止められないエリカ。エリカの顔付きは冷たくなり、安心するためなのか、処刑する時の音声を録音して聞き返すまでになってしまいます。その行為は、暴漢した犯人が暴漢時の様子を録画していた行為と何ら変わりませんでした。
そんなエリカの前に「善」の心を留まらせる人物、マーサー刑事が現れます。マーサー刑事は、「処刑人」の犯人像がエリカに一致すると、無意識のうちに感付いていたのでしょうね。また、暴漢に襲われたエリカが搬送された病院に、偶然に居合わせたマーサー刑事は重態のエリカの様子も見ているので、エリカの無念さと復讐心に燃える心情にも気付いていたのかもしれませんね。
マーサー刑事は、エリカに対し容疑者として詰め寄ることはなく、エリカの行為を止めようと説得しているかのようでした。そして、エリカもまた、マーサー刑事の想いに気付いていたようでした。
友人と呼べる関係にまでなった2人が本心を語らず話し合うシーンは、寂しさが漂っていました。
そして、ついに暴漢の犯人を突き止めたエリカ。止めようとするマーサー刑事。2人の結末は・・・。
エリカ役にはジョディ・フォスター。「処刑人」となったエリカの演技には鳥肌が立ちました。暴漢事件の前と後の表情、特に目の表情が強く印象に残ります。
マーサー刑事役にはテレンス・ハワード。人の善悪をエリカとは異なる視点で伝える難しい役を見事に演じています。「クラッシュ」でも人種差別や貧富を伝えるキーパーソン的な役割を演じていましたね。
ラストシーン。エリカとマーサー刑事の選択は正しかったのか、それとも・・・。
その後のエリカは、きっとこれからも「善」と「悪」に苦悩し続けるのではないのでしょうか。そして、マーサー刑事の選択は、その苦悩を少しでも分かち合ってあげたかのようにも感じました。
エリカだけにあると思っていた「善」と「悪」は、マーサー刑事にもありました。
「善」と「悪」の心を持ち、導き出すことができない答えに苦悩する。
それが人間に与えられた使命。
その苦悩から逃げずに、強く生きること。
その人こそ「ブレイブ ワン」なのかもしれませんね。