監督:ペドロ・アルモドバル
キャスト:
セシリア・ロス、マリサ・パレデス、ペネロペ・クルス、アントニア・サン・フアン
エロイ・アソリン、カンデラ・ベニャ、トニ・カント、ロサ・マリア・サルダ、フェルナンド・フェルナン・ゴメス
製作:1998年、スペイン
スペイン、マドリード。看護師で臓器移植コーディネーターでもあるマヌエラは息子エステバンと2人暮らし。エステバンの17歳の誕生日。大女優ウマ・ロッホが主演している舞台「欲望という名の電車」をマヌエラとエステバンは観劇する。感銘を受けたエステバンはウマ・ロッホのサインを求めるため、土砂降りの雨の中をマヌエラと待っていた。
しかし、タイミングが悪く、ウマ・ロッホがタクシーに乗り込んでしまった。タクシーを追いかけるエステバン。しかし、別の車に轢かれてしまい意識不明の重体となってしまう。そして、手の施しようがないと告げられたマヌエラは、エステバンの臓器を提供することに同意した。
3週間後。息子の死から立ち直れないマヌエラは、仕事を辞め、マドリードから青春時代を過ごしたバルセロナへと旅立った。
Comment:
女性たちの生きる喜びと活力を描いたヒューマン・ドラマ。
移植コーディネーターとして臓器提供者の母親を演じるマヌエラと実際に息子エステバンの臓器提供に同意するマヌエラ。その悲しみの深さが伝わり、胸が痛くなりました。
立ち直れないままバルセロナへと旅立つマヌエラ。強く生きるシングルマザー。看護師。みんなから愛されている。そんなマヌエラでしたが、実はバルセロナでの青春時代は相当羽目を外していたらしく、小さな劇団の女優として、そして娼婦として働いていました。
バルセロナでマヌエラは旧友であるアグラードと再会します。今も娼婦として働くアグラード。彼女は性同一性障害の男性です。しかし、彼女は女性というより「美」の追求者なのかもしれませんね。彼女は強烈な個性の持ち主でもあり、彼女がこの作品を大いに盛り上げたと言っても過言ではないでしょう。
アグラード役にはアントニア・サン・フアン。男性かと思いきや、実は本物の女性です。「トランスアメリカ」のフェリシティ・ハフマンも衝撃的でしたが、アントニア・サン・フアンもトランスジェンダーの男性を見事に演じています。
そして、マヌエラはアグラードとともに仕事探しへと出かけます。そこで出会ったのがシスター・ロサ。社会的立場の弱い人たちを助けている若く美しい女性でした。そして、マヌエラはロサから4ヶ月前までロラがここにいたと聞かされます。このロラと名乗る女性がマヌエラとアグラード、そしてロサを繋げるキーパーソン的な役割になっています。
そして、ロサにも悲劇が待ち構えていました。悲劇の元凶であるロラは女性になりたかったのか。それとも男性でいたかったのか。あまりに自分勝手で我が儘な人間のように思えました。でもマヌエラ、アグラード、ロサの3人は心底憎んではいないのも事実。惹き付ける何かがあったのでしょうね。ロラは自分にない「美」をロサに見つけたのかもしれませんね。
美しいロサ役にはペネロペ・クルス。主要キャストに若い女優がいないのもありますが、彼女の若々しい魅力が溢れています。
マヌエラはバルセロナでエステバンと観た同じ舞台「欲望という名の電車」にも再会します。1人で観ては号泣するマヌエラ。そしてマヌエラはエステバンがサインできなかった大女優ウマ・ロッホの楽屋へと侵入してしまいます。見知らぬ人の親切にすがることを信条にしているウマはマヌエラを不振がらず、終いにはアシスタントとして雇ってしまいます。
そして、ロサの悲劇と女優ニナとのトラブルによってアシスタントを突然辞めてしまうマヌエラ。そして、ウマがそれまでの給料を届けにマヌエラの家へと訪れます。そこで出会うマヌエラ、アグラード、ロサ、ウマの女性4人。異なる時代を強く生きている女性たちが集い、何気ない話に花を咲かす。このシーンが女性を讃歌しているこの作品の一番の見せ所なのかもしれませんね。
監督はペドロ・アルモドバル。この作品では女性への愛の讃歌を、「トーク・トゥ・ハー」では男性が女性へ捧げる愛をテーマにしています。女性と男性それぞれの視点から愛と心理を繊細に描くことができる監督。巨匠です。
マヌエラは異なる時代に生きる女性たちと出会い、悩みを共有し、夢も実現していきます。まるで、今まで人生に悔いを残さないように。そして、すべてを成し遂げた後、新たな人生へと旅立ちます。新たなエステバンとともに。
マヌエラ役にはセシリア・ロス。過去を多くは語らず、人生と正面から向き合い、強い意志で生きている女性マヌエラを好演しています。
「オール・アバウト・マイ・マザー」。この作品はエステバンが書きたかった母マヌエラの物語なのかもしれませんね。
ウマ役にはマリサ・パレデス。貫禄十分な大女優役を見事に演じています。ラストシーンの彼女の表情は女優そのものでした。
現代のマヌエラと青春時代のマヌエラ。女性として生きるアグラード。シスターでありながら危険な性を許した若い女性ロサ。そして大女優ウマ。本当の自分を隠して生きている4人。「女性は人生も演じながら生きている。そして強く美しく生きている。」という印象が残る作品でした。
第72回アカデミー賞 外国語映画賞
第52回カンヌ国際映画祭 監督賞
第57回ゴールデン・グローブ 外国語映画賞
第25回LA批評家協会賞 外国映画賞
第66回NY批評家協会賞 外国映画賞