監督:ステファヌ・ブリゼ
キャスト:
パトリック・シェネ、アンヌ・コンシニ
ジョルジュ・ウィルソン、リオネル・アベランスキ、シリル・クトン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ
製作:2005年、フランス
執行官として個人事務所を構えるジャン=クロードはバツイチで50歳。貧困層からマンションの立ち退き命令を下す仕事、老人ホームで生活している父のわがまま、仕事を継ぐ決意をしたはずの実の息子のはっきりしない態度・・・。ジャン=クロードはすべてに行き詰まり、疲れ果てていた。
そんなジャン=クロードの唯一の楽しみは向かいのビルのタンゴ教室。体調が優れず、激しい運動ができないジャン=クロードは覗き見していたタンゴ教室に通い始める。
同じタンゴ教室に通う結婚間近の女性フランソワーズは、結婚式でフィアンセのティエリーとタンゴを踊るためにレッスンを受けていた。しかし、作家であるティエリーは現在スランプ中でレッスンに誘うも部屋に閉じこもってばかり・・・。
フランソワーズは、古い知人だったジャン=クロードが同じ教室にいることを知り、レッスンでペアを組み始める。それは2人のプラトニックな関係の始まりでもあった・・・。
Comment:
歳の離れた男女の淡いラブストーリー。
ジャン=クロードを見ていると、50代は人生に疲れを感じる世代なのかと感じずにはいられませんでした。仕事はそろそろ第一線から退く準備をし、息子の成長を見て、年老いた親を介護する・・・そんな日々の繰り返し。ジャン=クロードの場合は、すべてを1人で抱え込んでいたから尚更なのでしょうね。
しかし、唯一の楽しみであるタンゴ教室でフランソワーズに出会い、何かが変わり始めました。
フランソワーズもまた人生の岐路に立たされていました。所謂「マリッジ・ブルー」というものなのでしょうか。自分に気をかけてくれないティエリーとの結婚に疑問を感じ始めます。そんなフランソワーズもジャン=クロードと出会い、何かが変わり始めました。
2人をこんなにも惹き合わせたものは、いったい何だったのでしょうか。
それぞれ理由も意味も異なりますが、ジャン=クロードは人生に対する、フランソワーズは結婚に対する「空虚感」のようなものをお互いに感じ、ポッカリと空いた心を埋めていたように感じました。
また、2人を惹き合わせたきっかけとなるタンゴが魔性の力を持っていたのかもしれませんね。
ジャン=クロード役にはパトリック・シェネ。シブいです。鋭い眼光、哀愁を漂わた男が、恋にときめく・・・。その姿が微笑ましいです。
フランソワーズ役にはアンヌ・コンシニ。笑顔がとてもチャーミングです。彼女の笑顔が観れただけで、この作品を観てよかったと思いました。
もう1つ、この作品にはテーマがありました。ジャン=クロードと息子、そして、父親との家族の在り方です。
ジャン=クロードの息子は、初めから事務所を継ぐことを拒んでいたようでした。でも、なかなか父親に言えません。意気地が無いように見えますが、父親の期待を裏切る上に、仕事で迷惑をかけたくないという気持ちもあったと思います。親近者だからこそ言えない気持ちに共感が持てました。それを察したジャン=クロードの息子に対する対応も父親らしい接し方でしたね。
そして、ジャン=クロードと父親の関係もまた一癖ありました。子供たちのなかでは、もうジャン=クロードしか父親の元へ訪れないというのに父親は暴言ばかり吐きます。しかし、ジャン=クロードが車で帰る様子を部屋の窓からいつも覗いています。その真意とは。そして、テニスの優勝トロフィーの一件。これらの展開から予想は付いていたものの、やっぱり感動しました。口にこそ出しませんでしたが、ジャン=クロードは後悔の念でいっぱいだったのではないでしょうか。
タイトルの「愛されるために、ここにいる」・・・誰がどこで待っているのか。
ジャン=クロードの息子は父親から愛されたいために事務所で、ジャン=クロードの父親はただ1人愛する息子を老人ホームで、そして、フランソワーズは真実の愛に気付かせてくれた人をタンゴ教室で・・・。
孤独な人生だと思っていたジャン=クロードの廻りには、こんなにも愛している人たちがいました。
「もっと廻りをよく見れば、愛してくれている人が必ずいますよ。」と語りかけているような、微笑ましい愛が感じられる作品でした。
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