戦場のピアニスト | ひでの徒然『映画』日記

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戦場のピアニスト


監督:ロマン・ポランスキー

キャスト:

エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、エミリア・フォックス

ミハウ・ジェブロフスキー、エド・ストッパード、モーリン・リップマン、フランク・フィンレイ

ジェシカ・ケイト・マイヤー、ジュリア・レイナー、ルース・プラット、ロナン・ヴィバート、ヴァレンタイン・ペルカ

製作:2002年、フランス/ドイツ/ポーランド/イギリス


ポーランドの首都ワルシャワにあるラジオ局でショパンを演奏していたピアニストのウワディスワフ・シュピルマン。しかし、爆音とともにラジオ局の窓ガラスは粉々になり、ピアノの音色もかき消された。


1939年9月。ナチス・ドイツがポーランドへ侵攻。


ユダヤ人であるシュピルマンと家族たちは、ゲットー(ユダヤ人居住区)への強制移住命令が下された。財産も没収され食べるものもなくなり、さらにドイツ兵から受ける容赦の無い迫害と虐殺の日々・・・。


1942年8月。シュピルマン一家もゲットーから強制収容所へ送られてしまう日が来てしまった。集められたユダヤ人のほとんどは、老人、女性、子供たちばかり・・・強制収容所へ送られることは死を意味していた。


貨物列車に強引に押し込められるユダヤ人たち。しかし、警察の友人の手によりウワディスワフただ1人が助けられる。


そして、ウワディスワフ・シュピルマンの生きるための孤独な闘いが始まった。


Comment:

ナチス・ドイツのポーランド侵攻から終戦までを、実在したピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの数奇な運命とともに描いた作品。


前半部のドイツ兵によるユダヤ人への迫害・・・。何の躊躇もなくユダヤ人を虐殺していくドイツ兵。老若男女を問いません。理由はユダヤ人だから・・・。何と愚かな行為なのでしょう。同じ人間とは思えません。胸が痛くなるのと同時に悔しい気持ちで目頭が熱くなってきました。


そんな中、シュピルマンだけが数々の危機を乗り越えていきます。それは奇跡そのものでした。シュピルマン自らが乗り越えたわけでなく、シュピルマンの周りいた人たちが彼を救っていたからです。


シュピルマンのピアニストとして才能を誰もが知っていたからこそ、彼を救わなければ見えない何かを失ってしまうような気にさせていたのかもしれません。


芸術は希望や未来を与え、心を豊かにするもの。それを後世の人たちに伝えなければならない「義務」をシュピルマンが背負わされたかのようでした。


後半部になると、シュピルマンはほとんど言葉を発しません。それは、シュピルマンと会話する人が誰もいなくなったからです。


1944年、8月。ワルシャワ蜂起。ワルシャワ市内でのドイツ軍と国内軍の戦いが激化します。ついに、ドイツ兵に見つかってしまったシュピルマンは死に物狂いで逃げ出します。そして、隔てた壁の向こう側には・・・。


何と不毛で非生産的な光景なのでしょう。このシーンだけでも戦争の惨状と愚かさが痛いほど感じられます。


ある建物に身を隠したシュピルマン。野菜の缶詰を見つけ必死に開けようとしたとき、1人のドイツ軍将校が見下ろしていました。シュピルマンが撃ち殺されてもおかしくはない状況です。


ドイツ軍将校の「職業は」との問いに、シュピルマンは「私はピアニストでした」と答えます。


そして、ドイツ軍将校はシュピルマンにピアノを弾かせませす。


数年間、1度も奏でることがなかったピアノ。しかし、シュピルマンは今まで練習してきたような、見事な演奏を披露します。彼は心の中でいつもピアノを奏で、孤独に耐えていたのではないでしょうか。この演奏シーンは神々しささえ感じました。


シュピルマン役はエイドリアン・ブロディ。後半の演技は必見です。この演奏シーンのために、前半の抑えた演技があったのかもしれません。今までの惨劇を見続けてきたシュピルマンの思いの丈をぶつけていたようにも感じられる迫真の演技でした。


そして、ドイツ軍将校はシュピルマンを匿います。彼も死んでいったシュピルマンの周りにいた人たちと同じように芸術に魅了されたのでしょう。何も生み出さない「戦争」より、何かを生み出す「芸術」に思いを託して・・・。


この作品は、目を覆いたくなるような惨たらしいシーンが数多くあり、観ることがつらくなりますが、この惨劇が実際にあったこと、そして、戦争とはいかに愚かな行為であるのかを知るのと同時に、芸術には国境がなく人の心を豊かにするものだと感じることができる至極の名作です。



第75回アカデミー賞 主演男優賞(エイドリアン・ブロディ)、監督賞、脚色賞

第55回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール



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