小学校に入る前のことである。
村では有名な産婆さんと同じく、たまに我が家に来る人に、朝鮮人のおじさんがいた。
私は記憶にないが、囲炉裏に這っていき落ちる直前にそのじいさんが救い上げてくれたらしく、小さい時から命の恩人だと教えられていた。
おじさんには2人の娘がいて、下の娘さんは私のお姉ちゃんくらいの年かさで、今でも田舎に帰るとちゃん呼ばわりされる隣のお姉ちゃん同様、きれいで優しいお姉ちゃんだった。
ただし、最近はその顔が思い出せなくなってきている。
オヤジの生前に訊いたが、私の父はあまりしゃべらなかった。
同じ小学校に通っていたはずだが、全く見た記憶がない。
どうも、私が小学高学年になる頃には、京都あたりに行ったらしい。
一度茸採りで、家のある山に行った。
電灯さえなく、今思うとキムチのような臭いが漂ってくる手作り山小屋に住んでいた。
家の中が見えたが、かなり汚い印象を受けた。
婆さんはひどく忙しそうに動いていたが、じいさんは動きが緩慢だった。
あの時、姉ちゃんの姿はなかった。
ひどく美化されたイメージだけが残る。
父とそのおじさんが、こたつで話ている画像は脳裏にあるが、その一瞬以外はほとんど覚えていない。
時々、優しかったお姉ちゃんのイメージだけが甦る。
追記
じいさんの家は山小屋などという気のきいたものではなく、2、3日で作れそうな掘っ立て小屋だった。
近くで山火事があり、その後は見ていない。
済州島から逃げてきたのだろうか?
今や分からない。