おい、明日から蕎麦を始めるぞ。
えっ?大将。うちはうどん屋。そば粉なんざありませんよ。できるわけないでしょ。
うんにゃ。 これがある。
はあ?なんですか。その真っ黒いやつは。
そば殻よ。
つまり、そば粉を取ったあとのそば殻だな。
皮の部分だけ磨り潰したものだ。
大将。大丈夫?
そば殻は、殻であってそば粉じゃないですよ。
甘いな。
都会連中は、そば粉が真っ白だっていうことを知らない。
不気味な灰色だと思っている。
お前さんだって、駅前蕎麦やスーパーで安い蕎麦麺を買ったことがあるだろう。
真っ白な麺なんてない。
都会連中は、蕎麦とは灰色だと思っている。
大将。ひょっとして、それをうどん粉に……!
やっと分かったか。
うどん粉に2割くらい、そば殻を混ぜる。
そうすると、駅蕎麦くらいの色合いになる。
殻が入っているから、適度にポサポサになって、食感も蕎麦になる。
大将。
それじゃ、詐欺ですよ。
何を言ってる。
市販の蕎麦なんざ、これと五十歩百歩。
市販の麺とおんなじだ。
なーんも、問題はねえ。
しばらくは、俺が混ぜ方の手本をみせる。
来月あたりから、おめえが捏ねてみろ。
そうだ。
特製手打ち蕎麦の看板を作っててくれ。
は、はあ。
その店は、特製手打ち蕎麦でえらく繁盛したとさ。
※そば粉とは、小麦粉より白く純白に近いものです。
市販の安物蕎麦は、7割近くは小麦粉だったりします。
信州生まれの蕎麦屋の先輩は、東京に出てきて、しばらく駅蕎麦を食えなかったようです。
あまりに不気味な色だったので。
信州あたりでも、真っ白な蕎麦はほとんど見られなくなりました。
そば粉だけでは、麺にしづらいこと。
真っ白なそば粉に製粉するのは、膨大な手間がかかるからです。
都会の人は、高度に製粉したそば粉が純白であることはあまり知りません。
また、そば粉だけで麺を打てる技術者もほとんどいなくなりました。