これも小説ということにしておこう。
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世界の中心、平和で平等だという国がある。
長逗留していたためだろう。
顔なじみとなったボーイから声をかけられた。
明日の夜に、スペシャルパーティーがあるのだという。
お前も紹介してやる、と言われた.。
カーキ色と深緑の長ズボンの群れるパーティなど面白くもなんともないが、話のタネにと二つ返事でOKした。
その夜は聖夜だった。
宗教を否定する国柄だから、偶然そうなっただけだろう。
通算すると1年は住んでいたそのホテルで、初めて私は最上階に昇った。
運よく100年物のエレベーターは、止まることなく私をそこに運んでくれた。
入室料を取られる。
あらかじめ聞いていたが、現地人にはべらぼうな高さだ。
入るだけで1か月の給与がすべて飛ぶ。
が、ドアが開いたとたん、目を丸くした。
ここはどこの国だったろうか。そんな気分になる。
カーキ色の長ズボン姿はなかった。
なんと、スカートをはいている。
スカート姿を見るのは、その国では2回目である。
一度は、海外からの客であふれる公園でだ。
今回は違っていた。
あの子はだれ?となじみのボーイに聞いた。
平和平等ホテルのオーナーの娘さんであるという。
輝いて見えた。
日本ならさしずめ、帝国ホテルオーナーの娘さんということにでもなろうか。
悪いことは言わない。変な気を起こしたり話しかけない方がいいよ、とのアドバイスも受けた。
翌朝、ホテルから5分くらいで行ける腹詰め場に行った。
焼きパンを求めたが、売ってくれない。
外券を出せばすぐに手に入るだろうが、ここで外券を出すのは危険すぎるし、仮に危険ではなくても、お釣りにおもちゃ銀行券をくしゃくしゃにしたような紙幣らしいものが増えるのも面倒だ。
と、ふと思い出した。
食券がないから渡してくれないのだと。
この国では、現地人用食券や油券、たばこ券がないと、現地の店では物が買えない。
頼まれて交換比率が公機関と実勢で2倍くらいの差のある紙幣を等価交換したときに、運転手から一緒にもらったものだ。
運転手はあの金を持って、舶来たばこを買えることができたかもしれない。
運よく、自国の自国人入室禁止の店に入れたならば。
昨夜の金があれば、この店で余裕で1年は食えただろうな、と思った。
さすが平和平等の国である。
こつじきも、報道的にはいないことになっている。
人間扱いされない人間も、一人もいないことになっている。
まあ、政策に反対するものはいつの間にか消えたりするから、それは正しいのかもしれない。
さすが平和平等の国である。
ちなみに、あまりに寒いので現地人から借りた上っ張りを着て自分のホテルに入ろうとしたら、ガードマンに止められた。
さすが、平和平等の国である。
そんな世界しか知らずに、夜には蜂蜜でも枕に提供されたら、スッと落ちてしまうだろう。
そんなことを考えた。
しかし、あの方は輝いて見えてしまったなあと、自分を少し叩いてみた。