【尾行】背中の眼 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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これも小説です。


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海外に長く住んでいると、18歳1ケ月前の少女やゴルゴ13ほどではないが、背中に目が生えてくる。


その駅に降り立った時は、観光でこんなんところに来たかったなあと思った。

目の前には3000m級の雪山が連なり、その手前には教科書通りの切り立った崖がつい立てとなっていた。ケスタ地形である。

初夏とはいえ、いささか肌寒くもある。


かつては『白い恋人たち』という芸術性の高いスポーツ映像でもおなじみの場所だ。

反対側には、数百年続く古い町並み。

いやいや、西のはずれには紀元前・ローマ時代のコロッセアムも見えた。


坂を上っているうちに、背中の眼が反応した。

ラテン人でも中東人にも見えない。

ロマかな?と思った。


わざと角を曲がって、目的地から外れるが、大通りに出た。


まだついてくる。


極東にある平等な名前を持つ国では、何度も尾行や盗聴・封書破りにはあっているいるが、今回は気持ちが悪かった。

日本の幽霊専門要員同様、相手が見えないからだ。



「兄さん、兄さん。まけとくぜ」

よくわからない言語だが、雰囲気からそう言っているように思えた。


最初はギクッとしたが、なんだ単なるポンびきか、押し売りだなと思って安心した。

それにしては、結構長い間ついてきたが。


男は、よれよれの鞄を開けて、ずい分手垢のしみついた雑誌を広げた。


その国なら、専門の書店に入ればすぐに入手できる類のものである。



そのまま返すと面倒そうなので、グラスワイン1杯程度を上げて手を振った。



ルーブルあたりには、結構怖い子ども集団がたむろしている。

グルノーブルのような田舎では、今は日本人のような上客も少ないし、こんな仕事じゃ飯にありつくのも大変そうだ。




その爺さんが、いささかあわれに感じられた。

日本に長居すると、背中の眼は退化するもののようだ。


最近は、全く何も見えなくなっている。