【透視小説】俺は言っていない! | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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原発緊急事態が、やっと発令された。

2時間半もむなしい時間が過ぎた。


その間にも、原発状況はどんどん悪化していった。

非常用ディーゼルも津波にやられて使えなくなっていた。

電源ケーブルを運んでもらうにも、運搬手段が無い。

外の放射能の値は、直接放射線を浴びれば、人間が数時間しか生きられない値を示していた。


そんな中を、所員達は綱引きするようにケーブルを運んだ。


そんな風にして、やっと外部電源確保が可能になったのだ。

ベントの際にも、馬韓の邪魔が入った。

いくら空缶とはいえ、首相がいるときにベントは行えない。

馬韓の乗ったヘリコプターが関東に出て行ったのを確かめてから、ベント作業に入ったのだ。


が、さらに大きな問題がでてきた。

イオン交換システムも働くなったため、真水の補給ができなくなっていたのだ。


原子炉において、冷却水の欠如は致命的だ。

最悪の場合、数万年その地域に住めなくなることにもなりかねない。





そのころ、官邸には大声が響いていた。


急遽原発事故担当になった背栄田は、馬韓に事情説明に行った。

真水調達ができなくなったから、海水を入れると。

背栄田は、単なる報告のつもりだった。

なぜなら、こうした事態が発生した時には、緊急事態法が活きる。

現場の細かい対応は、現場指揮者が責任をもって判断することになっている。


しかし、報告だけはしておこう。

そう思って部屋に入った背栄田は、まずいと思った。


馬韓の目が青色に光っている。

口元からは、白い泡のような物が見える。

またか!そう、思った。




そんなことをして、再臨界にはならないのか!!!

馬韓の大声が響いた。


再臨界???

背栄田は、考えてもいなかった言葉にきょとんとした。


馬韓は、友人人事で参考人にした真鱈にも、同じ言葉を投げかけた。



真鱈は、先日の水素爆発に関して、負い目があった。

水素爆発の可能性はほとんどない、と馬韓に言っていたのだった。

本音としては、再臨界などほとんど起きないと思っている。

が、水素爆発のことがある。

今度またしくじったら、次の天下りに響く。

真鱈は、可能性はあります。と、小声で答えた。



ほうら見ろ!

馬韓は、大きく胸をはった。



事務次官補で京電との連絡担当だった野口は、そのやりとりを聞いていて、ひとり官邸から出た。


官邸内で携帯は使えない。

壁には、金網と鉛が入っており、携帯電話の電波が届かないからだ。




京電本社では、野口から連絡を受け、すでに開始していた海水注入を止めるよう現場に電話する。





日本を救った『嘘』は、ここで起こった。


本社から海水停止を命じられた所長の善田は、大声で本社の命令を復唱した。


が、その手には『俺の言うことをするな。冷却水である海水は絶対止めるな』とい書いたA3用紙を持って。



この嘘の経緯を、大手マスコミは報じない。








1年半の後。


事故調査委員会で尋問を受けた馬韓首相は、胸を張ってこう言った。


僕は、海水を止めろなんて言っていない。


だいたい、海水が止まったデータはどこにもない。





気をきかせた、事務次官補の野口は気の毒である。

現在彼は、厚岸支局支局長となって“栄転”した。




この再臨界追及事件に関しては、もうひとりのお友達(某TVに出てから敵扱い)の茸田あたりにも聞いてみたい気がする。






それより重要なことは、非常事態宣言までの空白の2時間半である。

これに関しては、事故調査委員会のプロでさえ、追及なかばにして逃げられた。




私の個人的な見方では、馬韓さんは温情裁判で永久国外追放だ。

はい。ものすごく温情処理で。