おやおや、と思った。
この臭いは何だ?
どっかで嗅いだことがある。
しばらく考えた。
そうだ。
根津木乃伊楽土近くで働いていた時も、これに似た臭いを嗅いだことがある。
へんに生暖かい海風が流れてきたときだった。
あとで分かったが、根津木乃伊楽土の南2km位のところには焼き場があって、そこからの煙が流れてきたのだと知った。
そうだ。
あれと同じ臭いだ。
でも、この近くに焼き場なんてあったかな?
確かに数キロ先にはゴミ焼却場があるが、それと焼き場の臭いは違う。
少し散歩に出てみた。
まだ、におって来る。
へんだなあと思いながらコンビニに入った。
むむむっ!
ここでも、まだにおう。
ずいぶん経って、それは私自身から発しているものであることが分かった。
げっ!
ということは、俺自身が!!!
と、背中を叩かれた。
そろそろ行きますよ。舟に乗ってください。
コンビニが消えていた。
あたりは草野原。
その先に、灰色の川がある。
霧が濃くてよく見えないが、すでに何人か乗っているようで、私が最後らしい。
あのう。
少し待ってもらえませんかね。
いや、十分に待った。これ以上は無理だな。
そんな殺生な。
まだ、家のローンも残っているんですよ。
下の方は、まだ学生ですし・・・・・・。
そんな人間界の話をされても意味がない。
潔く諦めるんだな。
儂は、儂に与えられた仕事をしなければならない。
それはおかしいです。
職業というものは自分の意志で選択できるものです。
それは、職業選択の自由を保障した憲法に違反します。
だから、そんな人間界の話は関係が無い。
とにかく、乗れ。
いえ、わたしには自由権・生存権があります。
これは憲法で保障されています。
憲法は絶対に守らなくてはいけません。
うるしやっっちゃな。馬鹿が。
ぐちゃぐちゃ言ってないで、早く乗れ。
あっ!勝手に拘束する気ですか。
それも憲法違反です。
また、馬鹿呼ばわりしましたから、これも差別をしていますから、憲法違反です。
名誉棄損で訴えます。
うるさい。黙れ。
それは、表現の自由を侵しています。これも憲法違反です。
だいたい、なんであんたらに連れていかれなくてはならないのですか。
これは、お前たちの決まりだ。
三途の川を渡って、人間界とお別れしなければならない。
私は、そのような死後思想をもっていません。
信仰の自由は、憲法で保障されています。
あなたは憲法違反をしています、
ちっ。
本当にうるさいやっちゃ。
もう、舟の刻限が過ぎてしまう。
もう、勝手にせい。
というわけで、憲法を守れないあっちの役人を言い負かして、この世に戻ってきた。
おわり