これは、あるブロガーさんへ書いたコメントの、推敲文です。
コメントらしからぬコメントですが、即興のわりにはまずまずとピノキオジジイになってしまい、その反省を込めての書き直し文でごじゃります。
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ああ、そうよ。 この列車だったんだわ。
女は文庫本から目を外し、左手の窓の外に目を移した。
神戸を出るときには泣いていた空も、すっかり機嫌を直してくれている。瀬戸内の海が眩しい。
きらめく海の光に、目頭が痛くなってきた。
女は、瞼からうなじへと髪を鋤かした。
小豆島だわ。
女の口から微かな音が漏れた。
匂うはずのないオリーブの香りと、甘酸っぱさが甦ってくる。
あの時、私は、少し泣いていたかも知れないわ。
痛かったから?
それとも、幸せだったから?
女は、オリーブ味の時間旅行の中でさまよっている。
オカヤマー、オカヤマー。 お降りのお客様は、お忘れもののないように……。
社内放送が注意を呼び掛けている。
が、女は、想い出のかけらを座席に置き忘れたまま、席を立ったのだった。