【推敲】忘れもの | しま爺の平成夜話+野草生活日記

しま爺の平成夜話+野草生活日記

世間を少しばかり斜めから見てしまうしま爺さんの短編小説や随筆集などなど
★写真をクリックすると、解像度アップした画像になります。

これは、あるブロガーさんへ書いたコメントの、推敲文です。
コメントらしからぬコメントですが、即興のわりにはまずまずとピノキオジジイになってしまい、その反省を込めての書き直し文でごじゃります。

………………………………
ああ、そうよ。 この列車だったんだわ。
女は文庫本から目を外し、左手の窓の外に目を移した。

神戸を出るときには泣いていた空も、すっかり機嫌を直してくれている。瀬戸内の海が眩しい。
きらめく海の光に、目頭が痛くなってきた。
女は、瞼からうなじへと髪を鋤かした。

小豆島だわ。
女の口から微かな音が漏れた。

匂うはずのないオリーブの香りと、甘酸っぱさが甦ってくる。

あの時、私は、少し泣いていたかも知れないわ。

痛かったから?
それとも、幸せだったから?

女は、オリーブ味の時間旅行の中でさまよっている。

オカヤマー、オカヤマー。 お降りのお客様は、お忘れもののないように……。
社内放送が注意を呼び掛けている。

が、女は、想い出のかけらを座席に置き忘れたまま、席を立ったのだった。