【日記小説】誰も信じてくれない | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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これは、N国のチュワさんが、特別の配慮をもって日本を訪れたあと、地元に帰ってから村の皆にその体験を聞かせた時の話である。

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「チュワよう。お前さんの話は、さっきからすごい、すごいばっかりでさっぱりわかんねえや。あとちいと分かるように話てくれや」

「分かった。ほんじゃ、最初がらひとっつひとっつ話してぐ」

「ああ、そうしてくろ」

「まずびっくりしたのは、雲の上から見た日本は緑だったこどだ」

「ハッハッハ。冗談はよして、真面目に話せや」

「うんにゃ、冗談じゃね。飛行機の窓から見た日本の山は緑だった」

「バカ言ってんじゃねえ。地面は黄色に決まってるんべ」

「本当だって。日本は緑の木や草がいっぱいある。町ん中だって、空き地や道路ん中に草がいっぱい生えてて、ホントに緑ばっかりだ」

「ケッ!お前は日本に行って、嘘つきんなって帰ってきたな」

「ホントだって。ほんでもって、日本には水がいっぱいある川があちこちにある。しかも、山奥の高いところへ行くと緑とか青色で、泳いでいる魚が見える」

「こら、チュワ。地面が緑だっていう嘘で十分なのに、まだそげな嘘つぐが。雨季んなって川があんならわがっけど、高い山の水が緑や青だあ?バカも休み休み言え。山の上は赤い石がゴロゴロしてて、水なんかありっこねえ。ましてや、そんな色水はあるわきゃねえ。トカゲぐれえならいるだろうが、赤っ茶けた山に魚なんかいるはずねがっぺ」

「ホントだっちゅうに。そんでな、町はもっとビックリした。道に死体がひとつもねえ。いや、物乞いも見たごとねえ」


「おい、チュワ。おめえさんは、明日っから檻ん中さ入ってもらう。嘘がひどすぎる。おらの村でさえ、時々行き倒れ死体がある。町ん中じゃ、毎ん日ゴロゴロしてる。それに、町の住人の半分がとこは物乞いだ。それが常識だ。どうも、おめえさんの頭は壊れちまったみてえだ。よっぽど日本つう国でつらい目にあったんだべ。でもな、おめえさんみたい頭がいかれちまったやつを普通に置いておいちゃあ、まずい」


「ホ、ホントだっちゅうに」

「おい。チュワを檻ん中さぶちこめ」

「へい」






「可哀想に。もともとは頭のいいやつだったのに。日本へ行って、すっかりおがしくなっちまった。日本ちゅうのは、よっぽど貧しい所なんだべな。だから、あんな夢みて暮らしていたんだべな。可哀想に」