飲み屋と言っても、屋台を少し広くした程度で、ぎっしり詰めても10人位しか入れなかったのではなかろうか。
普段は、土方やらパチンコ帰りの客でぎっしりだった。
が、その日はなぜか3、4人しかいなかった。
女将さんの顔がすぐれない。
と、裏から珍しく旦那が顔を出した。
手に長い棒みたいものをぶら下げている。
カウンターにいる私にむかって、旦那がそれを引き抜き、私の目の前に出した。
3尺ちかいそれは、裸電球の下で妖しい光を放つ。
隣にいた客が急にお勘定をして出ていき、私だけになった。
「よう。学生。どうだ、すごがっぺ」
「いやあ、すごいです」
とりあえず、私は驚かねばならなかった。
「あんた、よしなさいよ」
女将さんが後ろでささやく。
「うるせえんだよ。なあ、学生」
私は何と答えてよいやら分からず、にやけてお猪口に口をつけた。
その後何を話したか記憶にないが、結構長い時間そこでチビりチビりしていた気がする。
ひどく安い店だったから、たまには学生でも入れた。
ある時は、ほとんど只でコップ酒を頼んだこともあった。
しかし、なんであの時、旦那はあんな物を客の目の前に突き出したのだろうか。
いまだに分からないでいる。
