台風18号は日本に甚大な被害を与え、北海道東沖からアリューシャンへと進んでいる。
こうした大嵐を台風(タイフウ)と呼ぶのは、漢語あたりからの比較的新しい輸入語だろう。
では、日本では本来なんと呼んでいたのだろうか。
中学あたりまでは、「野分き」または「野分け」と習うが、この言葉はひどく抽象的な言葉で、どうも平安前後に作られた日本語といった感じを受ける。
野を分けるもの=風
という、抽象語から具体語を作る発想は、あまりに文化人的だ。
これは一部の語源辞典にある、
(米などを)盗み(食う)→ねずみ
のような落語のだじゃれにもならないネズミ語源を、真面目に辞書に載せてしまう噴飯ものほどではないが、やや不自然だ。
いや、技巧的、知的すぎる。
そこで、古事記で風を何と表現しているか調べてみた。
と、風の神様の名前として、志那都比古(シナツヒコ)というものを見つけた。
ここで、ツは格助詞「~の」、ヒコは偉大な存在、男性王名などの末尾言葉だろうから、幹はシナだろう。
このシナは、風長と当て字ができるようだ。
つまり、風の元音は「シ」だろうと推察できる。
シュー、シューと空気が音をたてる。それを真似て、シュー→シとなったのではあるまいか。
なお、エジプト神話において、シューシューと空気を動かして天地を分けた神を、シュー(神)という。
蛇足だが、シナフ(→シナル=風などで木が曲がる)やシナヤカ(風にも折れずよく曲がるような柔軟性)も、古い日本語の風に関係している気がする。