【小説】甘豆ちゃんと渋栗ちゃん | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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虫がいた。
虫は、初めは甘栗と思われるの木に止まった。
が、それは渋栗だった。
渋栗が、根元に芽を出したばかりの甘豆の場所を教えた。


虫は早速、甘豆の若葉に止まった。



1年目。
甘豆は少し背が伸びていた。と同時に、成り行きを知った甘豆は渋栗を憎んだ。甘豆は芽を出して初めて、憎しみというものを知った。と同時に、渋栗を根元から切ってしまいたいほどの怒りを感じた。





5年が過ぎた。
甘豆はいっそう大きくはなっていたが、すでに葉は枯れだしていた。虫がしっかり寄生してしまったからだった。
甘豆は、まだ渋栗を腐らせてやりたかった。






10年が過ぎた。
甘豆はまだ怒りと憎しみを感じてはいたが、渋栗の枝の2、3本を折ってやる程度でいいかな、と感じ始めていた。








15年が過ぎた。
まだ、苦い思いはあったが、葉っぱの2、3枚落としてやるか、くらいの気持ちにはなっていた。







20年が過ぎた。

渋栗の木の根元に唾を吐いて終わりだ、と思った。






25年が過ぎた。

甘豆は、長い間渋栗のことを忘れてしまっている自分にはっとした。









30年が過ぎた。

渋栗が見えなくなったと、ずいぶん経ってから知った。









35年目。

おそらく甘豆は、渋栗の根元に線香を上げていることだろう。






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