【小説】うねる瞳 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

しま爺の平成夜話+野草生活日記

世間を少しばかり斜めから見てしまうしま爺さんの短編小説や随筆集などなど
★写真をクリックすると、解像度アップした画像になります。

クーラーつけて寝てる?ブログネタ:クーラーつけて寝てる? 参加中



冷え性ででもあるのだろうか。

女は膝あたりまで隠れてしまいそうな、あさぎ色のケープを纏っている。
やや肩幅が広い。短距離かなにか、いまでもスポーツをしているような体型に見えた。

「ここ空いていますかしら?」

さほど混んでいるとは言えぬ珈琲店の長椅子。

店の奥端に座っいる私に声をかけた。


しばしタバコの手を休め、私は軽く頷きながらも、ケープからはみ出した白い脚を垣間見た。

一人分くらいの空間を空けて、女が右隣に座った。

私は、もう一度安吾を開きながらも、視線は文字ではなく右30度方向に行っている。
女はそれを分かっているかのように、ゆっくりと脚を組んだ。ケープがアオザイになった。
そこには、白い色しかなかった。

単に細いだけではない、いくぶん筋肉質の脚にも見えた。

おそらく、まだ不惑前だろう。



「ブルマンね」

少し低めの声。NHKの黒木さんに似ている声だった。 そういえば、イメージにある昔の看板アナウンサーに、雰囲気もどことなく似ている。

が、いささか色艶が勝っている。





ははーん。久しぶりに現れてくれたかな?
そう思った。


世間で言う幽霊やらお化けは会ったことがないが、脚のあるお化けは若い頃から慣れ親しんでいる。


女には、その仲間特有の空気があった。


女は私に分かるように、ゆっくりと私の方を向き、しばらくの間見つめているようだった。

さて、どうしようか。
ちらり目を向けますかね。
私は読んでもいない安吾を閉じ、またタバコに火を付けながら、ゆるりと首を右に回した。


女の鼻腔が軽く開き、長い睫毛を従えたまぶたがほんのわずかに下に動き、焦げ茶色の瞳の中にゆるい波が立った。

唇が、かすかに開くような仕草があったかも知れない。
こりゃ、私より上だわ。
三十六計逃げるが勝ち。

私は視線を戻し、いかに魔力から逃げ出すかを考える。



と、女はケープのようなものを取り払った。

視界の中の白が、一気に増えた。


冷え性ではなかったようだ。 日除けに長いケープを纏っていたのだろう。

まるで女子高生が着るような、ベージュに茶の水玉模様の薄いワンピース。

膝上20㎝くらいまでは、白い肌が剥き出しになった。

せっかくのご好意だから、失礼はいかんと、もう一度首を回す。


今度は明らかに口が軽く開いた。

が、それはコーヒーカップの為だったかも知れない。



「失礼」



私は少し眉を上げ軽く会釈をして、レジへと向かった。
青白く鋭い、しかし黄色い粘ついた視線を背に受けながら。









「私です。星は今○キを出ました。フォローをお願いします」


女は、オニキスの指輪に話しかけた。