
昨日に続き、権之介の話をばしませう。
きゃつとは、出会い系サイトで知り合ったのではありまっしぇん。
半月ほど前、いささか魚の臭いがきついので、朝から生ゴミをば外に出しとったことがござる。
昼過ぎになり、唖然とした。
ゴミ袋に爪をたて、中身をば食い散らしとるきゃつがいたからだ。
儂はすぐに追い払おうとしたが、畜生とはいえ食事半ばでびっくりさせられ、せっかくの昼飯を取り上げられたならば根性が悪くなるであろう。
儂は一計を案じ、冷やし戸棚から夕飯に食おうと思っていた四つ足の腿あたりの肉をひょいと、庭の遠くへ放り投げた。
と、果たして、きゃつめはそっちの肉片にば飛び付いたではないか。
ゴミを整理し終わって、庭を見ると、きゃつめは壊れたベランダの柱に隠れて、時々こちらを覗いている様子。
例のゴミは鉄瓶に入れ蓋をしちまった。
そうか、まだ腹が減っておるのか、でまた肉片をば投げてやる。
パッと飛び付くと、また草むらの中に入り、そこでクチャクチャしているようであった。
その後、きゃつめは昼前にやって来て、儂の昼飯を食ってから長らく昼寝をし、夕方にはどこぞに消えていくのが分かった。
おそらく、奉公先で主の娘にでも手を出し追い出されるようなことをし、今は夜勤の仕事でもしているのだろう。
猫の世界に労働基準法があるかどうかは定かではないが、いつも腹を空かしていることから考え、最低賃金も安いに違いない。
また、仮にかの法律があっても、このような鄙での夜勤アルバイトでは、無きに等しいに違いない。
そう思うと、昨日破かれた蚊避け網のことも、まあ許すかと思えてきたのでごわす。
いや、確たる証拠も無しに、状況証拠だけできゃつめを犯人にしては、冤罪になる可能性もある。
そう儂は考えて、今日は普段よりいささか活きのいいサバの切り身を、きゃつめに投げたのでごわす。
現金なもので、猫なで声こそはあげなかったものの、急に態度が変わって、儂が南蛮水晶窓を開けても柱の陰に隠れることもしなければ、儂に近づいてきたのである。
ひょいと腰巾着南蛮渡来青写箱をきゃつめに向けた。
儂の目を直視するのは避けたが、ずいぶんと馴れ馴れしい。
この壊れベランダは、近いうちに取り払い、2坪の畑地にしようかと考えていたところだ。
そうなれば2坪の大百姓。来るべき食糧難にも蓄財万全と考えていた。
しかし、ここを取り払うと、夜勤で疲れたきゃつめの昼寝の場所がなくなる。
うーむ。
どこかに引っ越すあてもないだろうから、しばらくは今のままにしておくか。

本人から写真掲載の了解は得ておらんが、サバの切り身を与えたので、肖像権うんぬんで訴えられることはなかんべ。