【小説】どうして喜んでくれないの?どうして叱るの?! | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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これであの人も優しくなるわ。


あたしは本当に嬉しかった。帰り道のバスの中で涙がこぼれそうだった。

そう、あたしは今日天導師さまにお会いして、直接お言葉を聞いたの。
お守りももらったわ。
なんか体が熱くなってる。




「なんだ、これ。ずいぶん水のペットボトルがあるが」


「あっ。それね、聞いて聞いて。すんごく体にいいお水なの」

「ふーん。地震後に買い占めた水が、大手倉庫に余ってるから、どうせその在庫処分品だろう」


あの人は罰当たりなことを言ったのね。それであたしも切れちゃった。

「何言ってんの。それはね、神霊仏天国からのありがたいお水よ。本当は1本1万円以上するけど、特別に2000円にしてもらったんだから」

あたしは少し得意気に言ってやったわ。


「それが24本で5万円以下よ」

あたしが続けた。



「ばっかやろーう」

あの人のいつもの癇癪が始まった。


あたしは今日もらったお守りをかざした。


「なんだ、それは!」


「あなたの癇癪が治まるお守り」


「バカ言うな。それも買ったのか!」



「ううん。いただいたの」

「誰に」


「すごいの。驚かないで。神霊仏天国界の天導師さま」



「はあ?」


「世の中のことすべて分かってらっしゃるの。このお守りで、あなたの癇癪も治るって」



「あのなあ。とにかく、もうお前は何も買うな。そんなヤツのところにも行くな」



「えっ?そんなもったいない。もう天導師さまとの拝謁券10回分払ったし」


「あーっ!なんだ。その拝謁券ていうのは!」


「10回で15万円。安いでしょう。本当なら1回2万円なのよ」



私はまた自慢した。



あの人は、ちゃぶ台をひっくり返した。

また、癇癪が出たわ。

でも大丈夫。

拝謁の時に、特製お守り頼んでおいたから。
50万とちょっと高いけど、絶対大丈夫。あの人の名刺をたくさん渡して、そこに念も入れて下さるっていうし。銀行口座番号に合うラッキーナンバーも教えてもらえるし。



あーあ、あたしはこんなにあの人のことを思っているのに、どうして喜んでくれないのかしら?
どうして叱ってばかりなのかしら?



でも大丈夫。


次の拝謁の時には、特製お守りもいただけるし、もっとすごい奥義を教えて下さるっておっしゃっていたから。





なんてあたしは、あの人思いなのだろう。



自分で言うのもなんだけど、あたしって本当にお人好しだわ。