
朝になった。
まだ俺は生きているらしい。
チョキムは凍りついたまつげに痛さを感じていた。
痛いと感じるのだから、たぶん生きているのだ。
そう思った。
オムニは何日か前に凍っていた。
秋に掘っておいた松の根もしゃぶりつくした。
前掛け汁はもう無理だ。
麻がボロボロになるまで煮てしまっている。
形のあるものを何日くらい口にしていないだろうか。
秋の終わりに見つけたカミキリムシの幼虫の香ばしさが甦る。
起きてみようと思った。
足が勝手に踊る。
それでも、なんとか立ち上がることができた。
ほこらの中でさえ空気が凍っている。
ほこらのある草木1本生えていない岩山の向こうには、大きな川がある。
今は底まで凍り付いているかも知れない。
その川の向こうには、キムチどころか、毎日粟や麦が口に入る国があるという。
米の飯をたらふく食べられるばかりか、半日あとにはそれを捨ててしまうところもあるなどというおおぼらを吹く仲間もいた。
おそらくあいつは、腹が減り過ぎて頭をやられたのだろう。
そんな夢物語はさておき、確かに南の山には木や草が多そうだ。
昔チャンバイ山に登ったときに見た南の山は、茶色ではなく緑が多そうだった。
これもほら吹きが言っていたが、何もしないのに地面が草でおおわれてしまう場所があるという。
嘘に決まっているが、嘘と分かっていても、その夢の国に行ってみようかと考えている。
夏にあの川を渡りきるのは難しい。
向こう岸に着く前に、鉄砲でズドンでおしまいだ。
が、今なら駆け足で滑れば息を5つもするうちに向こうにたどり着けるだろう。
問題は真っ直ぐ走れるかどうかだ。
立っているだけでプルプルしている。
走るどころか歩くことさえままならない。
冬の住み家である洞窟を出た。
と、耳の中がキーンとしたかと思うと同時に、空き腹を震わすものがあった。
恐ろしく晴れた寒さを呼ぶ空に、松明のお化けが空の上へ上へとかけ昇っていくのが見えた。
ああ、とうとうお迎えが来たよだ。
やっぱり、米を腹一杯食える世界なんてないさ。
チョキムは笑顔のまま凍っていく。
昼の最高気温マイナス20度。
チョキムのいた盆地の村は、ベルホヤンクスよりははるかに温かい。とはいえ、ハバロフスク並みの寒い冬。
特に今年は凄まじい。
あちこちのほこらには、凍ったままの骨と皮だけの像が、忘れ去られた置物のように横たわっているばかりだ。