この包丁は世界に2つとない、なんでも切れる包丁です。
100円ショップで買えるようながさつな箱から、師はそれを取り出した。
いや、取り出すような動きをした。
というのは、私にはそれが見えなかったからだ。
いいか、ここに一番硬いと言われているダイヤモンドがある。
やはり、私には見えない。
ダイヤモンドでさえこの通り。
師は両手の掌を少し曲げて、私に差しだす。
が、私に見えたのは、しわだらけの掌だけだった。
じっちゃん。
カボチャかたくって切れないや。
切って!
隣の部屋から、小学校に上がったばかりくらいの子どもが顔をのぞかせた。
師は台所から錆びた包丁を取り出し、顔を真っ赤にしながらカボチャと格闘している。
なんで世界一切れる包丁を使わないのかなあ。
ふと、そう思った。